南風原@東大教育心理です。
谷口さん@岡山大学文学研究科M2からの [fpr 74] Question? では,1頭の
被験体による餌Tと餌Bの選択回数のデータを
餌T 餌B
−−−−−−−−−−
T1 B1
T2 B2
・ ・
・ ・
T19 B19
−−−−−−−−−−
のように表したとき,これに Wilcoxon signed ranks test を適用して得られ
る検定統計量を,各個体の選択行動の特徴を記述する指標として用いることの
可否を話題にしています。
私は,検定統計量を記述的な指標として用いることには,一般的に言って,問
題があると思います。まず,
(1)一般に,検定統計量は「効果の大きさ」(いまの場合,選択率の差異の
大きさ)に「標本の大きさ」(いまの場合,対の数)を乗じた形となりますの
で,対の数に直接依存した指標となってしまいます。(検定統計量の公式から
は必ずしも明らかでないかもしれませんが。)
そして,その結果,
(2)その指標の値(1.57など)が具体的にどの程度の選択率の差異を表
すのかが,伝わりにくくなります。
いまの場合,どの個体も対の数が19で一定なので,(1)の問題は個体差を
相対的に見ていく分には問題になりませんが,(2)の問題は残ります。
個体の選択行動の特徴を記述するというのは,純粋に「測定」ないし「数量化」
の問題ですから,検定法とは切り離して,値の意味が解釈しやすい記述的指標
(たとえば,文字通り「選択率の差異」をとるなど)を独自に考えられてはい
かがですか。
> また,最初のT testの測定値が,同じ個体から繰り返し取り出された
> 値であり,独立ではないことも気になっています。これが T test の原
> 理にどれくらい影響を及ぼしているのか?
これは,上記の数量化の問題とは別に統計的推論の問題として考えてみたいと
思います。「同じ個体から繰り返し取り出された値であり,独立ではない」と
ありますが,同じ個体からの反復データは,複数の個体のデータがプールされ
る場合に,他の個体のデータからは識別されるその個体の特徴を共有して一種
のまとまりを示すため,独立ではなくなるのでしょう。
いまの場合は,とりあえず他の個体は関係なく,N=1の問題として考えてい
るわけですから,同じ個体からの反復データであることが,即「独立でない」
ということにはならないと思います。この場合は,1つの個体を固定したとき,
冒頭の表のT1,B1がどういう値になるかが,その後のT2,B2に影響を
与えるか,それともお互いに独立な事象と考えることができるのか,が問題に
なるのではないでしょうか。(テスト理論ではこの種の独立性がしばしば取り
上げられます。)
この後半の問題については,単一事例の研究を専門とされている方に補足して
いただければ,と思います。
====================
南風原朝和 (はえばら ともかず)
tomokazu (at) tansei.cc.u-tokyo.ac.jp
〒113 文京区本郷7-3-1 東京大学教育学部
TEL: 03-5802-3350 FAX 03-3813-8807
====================
ここは心理学研究の基礎メーリングリストに投稿された過去の記事を掲載しているページです。