豊田@教育心理学専攻です Yutaka KANO (Tsukuba University) <kano (at) math.tsukuba.ac.jp> さんは書きました: >狩野@スウガクヤです >まず、不適解(ヘイウッドケイス) >には「良性」と「悪性」があると思います。標本変動によるものが「良性」で、それ >以外の要因と考えられるものが「悪性」です。不適解が得られたとき「良性」の場合 >もかなりあります。 「良性」「悪性」という分類は,不適解に対処するさいにキイとなる視点ですね. >シミュレーションをやるとすぐにわかるのですが、シミュレーシ >ョンは、真のモデルが因子モデルであり、それから発生させた乱数に基づいて因子分 >析をするのですから、不適解の原因は標本変動のみです。私の感じでは、12変量* >3因子*標本サイズ100だと、10%以上が不適解になるのではないかと思われま >す(勿論モデルの真値によりますが)。 その真値でありますが,大学院生のとき行ったシミュレーションでは,共通性 の値を高くセットすると「良性」の不適解がたくさん観察されました.考えてみれば 統計量は真値のまわりにばらつくのですから,真値が0.3の場合と0.95の場合を比較 すれば,後者の推定値が1.0を突破する確率が高くなるのが自然です.統計学的 にはそれで良いのでしょうが,心理学の立場からは少々パラドクス的です. 一般的に,プサイは測定誤差分散と独自因子分散の和と考えられ,項目作製段階 ではワーディングに気を配り,信頼性が高くなるように,他の項目との構成概念妥当 性が高くなるように配慮し,共通性を高めようと努力しているからです.心理学の技 術的な現状では信頼性や妥当性をそれ程高くできないから,この問題は表面化しない のかもしれません. >良性の不適解に対しては、「独自性が非負である」という制約のもとで推定値を求めた >り(ほとんどのソフトウェアはデフォルトでそうなっているはず)、 本当ですか? ほとんどのソフトはデフォルトでは,制約していないとおもいますが? また,節度というか「たしなみ」というか,デフォルトで制約してはいけな いと思います.不適解はモデルとデータの適合の重要なサインですから. >ペナルティ法やベイズ法が有効な推定法になると考えます。 不適解が観察されたときに,それをペナルティ法やベイズ法で回避することは,数理 統計学的にはなんら問題ないと思いますが,実用場面では心理学的に問題があると思 います.というのは「使用した関数または事前分布は『せっかく苦労してあつめたデ ータなんやから,不適解なんかになられたらウチ困る.ぎょうさん研究費つこたんや から,共通性の大きさをちょっと勉強して(まけて)えな』という信念を表現してい るのでしょう」と指摘されたら(それが本音なので)抗弁できないからです. >V12 .155 .472 .010 .868 > >このように、初期値によって解が大きく変わる、不適解になる変数が変わる、という >ことになると、このモデルは信用がおけないのではないかという気になってきます。 >この2つの解にバリマックス回転などを施そうものなら、まったく違った回転解が得 >られるものと思われます。 この部分は実践家にとって有用なノウハウですね.私も経験的に感じて,無意識に 利用していた判断基準でしたが,「初期値によって解が著しく異なる場合は悪性で ある」ことは理論的に示されるのでしょうか.というより推定値がズルズル移動 する症状を伴うことが多くて,識別問題に引っ掛かっている可能性が高いという ことなのでしょうか >以上の議論は、探索的因子分析で識別性を保証するためには、「因子負荷行列の各列 >に3つ以上の非ゼロ要素が必要である」という有名な定理(Anderson-Rubin)の実際例 >です。 アンダーソン・ルビンの定理はこういうところで使うのですね.勉強になりました. 私は,拙著でも述べているように,不適解に出会ったら「独自性の絶対値」に注目しま す.その値が今回のように,大きい場合には「悪性」と判断します.あるいは「良性」 かもしれないけれども標本数が少なすぎて実質科学的な解釈はできない状態と判断しま す.この判断基準は明快です.絶対値が小さい場合は,独自分散の信頼区間をにらんで, その変数の常識的な信頼性と妥当性の観点から「良性」と仮定して矛盾がないかどうか 判断します. たとえば. 独自分散が-0.05と推定され,その標準誤差が0.1から0.2位で,その変数は「体の部位 の長さの測定値」であったことがありました.このときは「良性」と判断しました. 処理をどうするかという問題ですが, 1.信頼区間と比較して絶対値が小さい 2.変数の信頼性も高いし,構成概念妥当性もあるから「良性」の可能性が高い. という説明を加えて,そのまま発表しても良いし,バウンズを設けて独自性 を0として発表してもよいと思います.それが実態に近い結果だからです. データを構造と誤差に分けたときに,構造の部分が大きいからこそ起きた 不適解なので,堂々と発表してよいと思います. ---------------------------------------------------------------------- Hideki TOYODA Ph.D., Associate Professor, Department of Sociology TEL +81-3-3985-2321 FAX +81-3-3985-2833, Rikkyo (St.Paul's) University toyoda (at) rikkyo.ac.jp 3-34-1 Nishi-Ikebukuro Toshima-ku Tokyo 171 Japan ----------------------------------------------------------------------
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