[fpr 262] WAIS-R

服部環

 宇都宮大学の服部です.

 だいぶ前に,私は,

>> 話はちょっと違いますが,最尤推定法の反復計算の途中で共通性の推定値が1
>を越>えたとき,さらに計算を繰り返すと共通性が妥当な値に収束することもある,
そ

ということを書きました.私自身は,探索的因子分析でそのようなことを経験したこ
とがないのですが(ただ,共分散構造分析では,不適解から許容解に戻ることはそれ
ほど珍しいことでもないと思います),私にお話をしてくださった方は,種々の工夫
を凝らして個人的に作られたソフトで経験されたようです.聞き間違いでければ(確
認は取っていませんので,違うとまずいですから,お名前は伏せます),何十万回か
数百万回以上の反復をしたときに不適解でなくなったのを体験されたそうです.その
時の印象では,きわめてまれな現象だと思いました.

 ところで,FPR182で堀さんが不適解の例示をされました(その後,鈴木さんも).
相関行列は次の通りです.

1
.945 1
.840 .720 1
.735 .630 .560 1
.630 .540 .480 .420 1

 SPSSで最尤解(1因子)を求めると次のようになるそうです.
>>Warning # 11382
>>反復の最中に、1.0を超える一つまたは複数の共線性推定値が見つかりまし
>>た。この結果得られた不適切な解は、注意深く解釈すべきです。
>
>ML    extracted   1 factors.    6 iterations required.                
>                                                                      
>>Note # 11379                                                         
>>ケース数(N)を表すベクトルも行列も指定されていません。カイ二乗統計量を
>>計算することができません。                                           
>                                                                      
>Factor Matrix:                                                        
>                                                                      
>                                                                      
>              Factor  1                                               
>                                                                      
>X1              .99950                                                
>X2              .94510                                                
>X3              .83962                                                
>X4              .73459                                                
>X5              .62962                                                
>                                                                      
>*****                                                            

 この結果は共通性が1以下になりますが,これは何らかの制約をおいて計算した最
尤推定値(といってもよいのでしょうか?)でしょうから,「>> 話はちょっと違い
ますが,最尤推定法の反復計算の途中で共通性の推定値が1を越>えたとき,さらに計
算を繰り返すと共通性が妥当な値に収束することもある」の事例とは別だと思います.
なぜなら,この相関行列に1因子を仮定したとき,次の値が相関行列を完璧に再現で
きる解になるからです(最小自乗法や重み付き最初自乗法でも,制約を課さなければ,
この値になるはずです).

  1.05
  0.90
  0.80
  0.70
  0.60


 話は換わります.
 LISREL7は識別できないモデルを解こうとすると,計算をしません.ところが,LIS
REL8を使って識別できない確認的因子分析をさせましたら,なんと,解いてくれまし
た.驚いて,出力をみますと,お節介なことに,利用者の意図を無視して識別できる
モデルにしてくれていました.これでは,教材が作りにくくて困ります.
 CALISは識別できないモデルを投入しますと,うまい数値計算法を使って計算をしま
す.丁寧な警告はでますが,うっかりすると,妥当な解だと勘違いしそうです.丁寧
な警告はそのままで,解を出力しないようにしてくれるとありがたいのですが.
 EQSは(狩野さんのご指摘(FPR247)もありました)誤差分散に非負という制約をデ
フォルトで付けますが,HEYWOODケースのとき,誤差分散を負の値のままで推定させる
ようなオプションがあると便利です(あるのかな?).

 FPR215の豊田さん.
#服部先生のソフトは製品化(シェアウエア化? フリー化?)されるのでしょうか
#ちなみに私がIMLで書いたソフトは廃盤化しました

 このソフトは,0以外の固定母数をすべて特定し,かつ,自由母数に通し番号をつ
けて特定しないと動きません.おまけに,初期値は,自分で入れないと乱数になりま
す.さらに悪いことに,数値計算法とBASICの問題で,計算に一般のソフトの数倍の時
間はかかります.つまり,実用的ではありません.ただ,母数をきちんと特定する必
要がありますので(上記と関係しますが,これが作ったきっかけです),共分散構造
分析の勉強にはなるかと思います.それと,CROSS VALIDATIONの実行は楽かもしれま
せん(そう思っているのは本人だけ?).
 まだ,廃盤にはしていません.出来の悪いソフトに文句を言いたくても言わない方,
私だけに文句を言う方には(出来の悪い子を持った親の気持ち),公開も考えていま
す(シェアウェアでもフリーでもないし,こういうのは何て言うのだろう?).

 FPR250の堀さん.WAIS-Rに関係して.
>直交解がよくて斜交解がいけないというのはどうしてでしょうか。角度になにか制
約
>をもうけているのでしょうか。なんにもわからなくても果敢に問いかけます。

 特別の制約は課していません.


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