南風原@東大教育心理です。
緑川さん@中大 wrote:
>> 次のような場合はt検定は行うべきではないのでしょうか。
>>
>> ある一人の方に対して言語性の記憶課題と視覚性の記憶課題を行いました。
>> それぞれ、4刺激を呈示し、次にdistraction刺激4つを含む8刺激の中から、見たこ
>> とがあるものとそうではないものを同定してもらうというものです(つまりチャンス
>> レベルは4刺激です)。そしてこれを計5試行ずつ行い以下の結果が出ました。
>>
>>
>> 言語性 視覚性
>> 1) 5 5
>> 2) 4 6
>> 3) 5 7
>> 4) 5 6
>> 5) 5 6
>> 平均 4.8 6
観測値を記号で表しておきます。
試行 言語性 視覚性
1 X1 Y1
2 X2 Y2
3 X3 Y3
4 X4 Y4
5 X5 Y5
まず,これらの観測値が測定誤差によって左右されることから,観測値に対して
確率モデル(確率的なデータ発生の仕組み)を想定すること自体は問題ないよう
に思います。
次にX1のデータ発生の仕組みとX2等のデータ発生の仕組みを同じと考えてよ
いかという問題があります。もし試行を重ねるごとに練習効果で系統的に成績が
向上していくようでしたら,「試行」という要因を導入して,「条件×試行」の
2要因の構造を考える必要があるでしょう。(いわゆる「対応のあるデータ」と
いうことになります。)
試行を重ねることによる練習効果でなく,前の試行における観測値がいくらであ
ったかということが,後の試行における観測値に影響を与えるとしたら,観測値
の独立性の問題が生じてきます。
各観測値に同じ確率モデルを想定すること,そして観測値間の独立性を仮定する
ことに無理がないとしたら,あとはその確率モデルとして,XとYとで分散の等
しい正規分布を仮定することの適否を検討することになります。
いまの場合,観測値の取りうる値は0から8までの離散的な値ですから,正規分
布の仮定が厳密には成り立たないことは明らかですが,そのことが実際上,どれ
ほど結果に影響するかという頑健性が問題になります。(その意味では,上記の
独立性の仮定からの逸脱についても同様です。)
頑健性についての研究はいろいろ報告されているようですが,個々のケースに直
接答えてくれるような研究報告を見つけるのは難しいと思います。この研究の具
体的な状況に合わせた,ローカルなシミュレーションで,頑健性を確認しておく
ことができれば,それが最良のように思います。
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東京大学教育学部
南風原朝和 (はえばら ともかず)
haebara (at) educhan.p.u-tokyo.ac.jp
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