[fpr 359] 共分散構造モデルの検出力

南風原朝和

南風原@東大教育心理です。

堀さん@香川大学経済学部が [fpr 349] [fpr 351] で紹介された論文

 >> MacCallum,R.C.,Browne,M.W.,and Sugawara,H.M.(1996)Power analysis and 
 >>   determination of sample size for covariance structure modeling. 
 >>   Psychological Methods,1(2),130-149.

を読んでみました。

exact fit を帰無仮説として検定することの限界(実用上十分な close
fit を示す場合でもNが大きいと帰無仮説が棄却されてしまう)を克服
するために,close fit (lack of fit がある値以下)を帰無仮説とし
た片側検定と,その否定である not close fit を帰無仮説とした(最初
の検定とは反対の側に棄却域をもつ)片側検定をすることを提案してい
て,たいへん面白いと思いました。

仮説検定では,帰無仮説が棄却されるか否かという2値的な判断しかで
きないことが限界の1つとして挙げられることが多いですが,この論文
のように複数の仮説の検定をするとしたら,それぞれは2値的である検
定結果を総合することで,多値的な判断ができることになります(例:
close fit を棄却し not close fit を採択,どちらも採択,close fit
を採択し not close fit を棄却)。

ところで,2値的判断から多値的判断へという方向をさらに押し進めれ
ば,(無数の帰無仮説の検定結果を包含している)信頼区間を求めると
いうことになるかと思います。また,検出力を考慮するという方向も多
値的判断への方向そして区間推定への方向と同様に effect size (ここ
での問題では lack of fit の程度)の検討を重視する方向と言えます。
実際,上記論文の中でも信頼区間の有用性が繰り返し述べられています。

つまり,上記論文は,effect size の区間推定の有用性を主張しながら,
次善の方法として,検出力の検討を伴う複数の帰無仮説の検定という方
法を提案しているようです。

しかし,検出力の検討を伴う複数の帰無仮説の検定が無理なく実行できる
ほどに effect size の値の実質的な解釈ができるのであれば,effect 
size の信頼区間も実質的な解釈が可能なはずで,なおかつ検定以上の情
報を提供できるわけですから,検定方式を複雑にするより,直接的に区間
推定にもっていくほうがスッキリしているように思います。必要なサンプ
ルサイズの決定も,信頼区間の幅を考慮して行えばよいわけですから。

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