南風原@東大教育心理です。
長谷川さんは以下のように書いています。[fpr 400]:
>> たとえば、“なぜ子供はファミコンに熱中するのか”という問題を考える場合、
>> ファミコンに熱中している子供やそれに無関心な子供をひっくるめて個体差の分
>> 析をすれば、“こういう子供はファミコンに熱中しやすい”という予測因は明ら
>> かにできると思います。
>> けれど、ファミコンに熱中している子供において、何がその行動を維持・強化し
>> ているのかという分析も同じぐらい大切ではないでしょうか。
このことに関連して,常々パラドクス的だと思っていることがあります。
個体差があることを利用して,それと相関をもつ状況変数を見つけるタイプの研究
で因果関係を推論する場合,「これこれの変数が影響するようだ」というように,
個体を超えた一般的な(その意味で個体差を無視した)プロセスを想定するのが普
通です。(個体差変数と状況変数との交互作用を組み込んだ研究の場合は「個体差
の無視」の程度は減じられますが。)
一方,個体内の分析は,それぞれの個体におけるプロセスを明らかにしようとしま
すから,個体ごとに異なるプロセスが存在していることの発見を可能にするような
(その意味で個体差を大切にした)分析となります。
前者の場合,多様な個体に基づく「一般的な」推論をしているのですが,その結論
がそれぞれの個体にどれだけ一般的に当てはまるか,という検証は何もしていない
わけです。
それに対して後者の場合,個体内分析による結論が個体を超えてどれだけ一般性を
もつかが,追試という形で自然に検討されることになります。
多くの個体を用いた個体差研究が,その結論において個体差を無視しがちで,結論
の一般性に対する検討もなされない一方で,個別のケースに基づく個体内研究が個
体差を重視し,結論の一般性に対する検討にも開かれている,という点がパラドク
ス的に思えるのです。
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