長谷川@岡山大学文学部心理学教室です。 連休中に議論がもりあがってきました。連休明けに初めて受信ボックスを開けた方はびっくりされるかも しれません。 さて、尺度の水準の話なんですが、私は、学生の時に初めてこのことを習ったとき、比尺度(“比率尺 度”として習いましたが最近では“比尺度”と呼ぶのかな。南風原さんの本では比尺度になっています ね。短いほうがいいので、ここでは“比尺度”と呼んでおきます)、間隔尺度、順序尺度、名義尺度の4 通り以外の水準はないのだろうかと疑問に思ったことがあります。 しかし、尺度の水準というのは、“この変数では平均値やピアソンの相関は求めてはいけない”というよ うに、統計分析をする時のやってよいことといけないことを見通すための目安のようなものなのだろうと 勝手に判断して、その後あまり深く追求したことはありませんでした。 改めて考え直してみましたが、次のようなことが言えるのではないでしょうか? (1)ある変数が物理的には比尺度であるからと言って、比尺度で許されている分析が直ちに使えるとは限 らない。 (2)ある変数が比尺度であるからと言って、その変数の2つの値を元に算出される比が常に意味をもつと は限らない。 (3)独立変数が比尺度である場合と、従属変数が比尺度である場合を同一に考えてはならない。 具体的な例として、年齢と反応時間をあげたいと思います。 時間というのは、相対性理論でも持ち出さない限り、いちおう比尺度と考えていいですよね。 例1)5歳の子供と10歳の子供がいたとします。 この場合、10歳の子供が5歳の子供より2倍長く生きているという言明は意味をもちます。しかし、こ の2人が兄弟だったとして、“兄弟の年齢比は2:1であった”という言明はほとんど意味はもちません ね。これが上記の(2)の例になると思います。 同じく、夫婦の間の年齢の差は意味がありますが、年齢の比は1年経過するごとに変わってくるので意味 をもたないと思われます。 例2)反応時間 反応時間は岡本さんの専門ですから、きっと正確なフォローをしてもらえると期待しますが、とりあえず 私の考えを述べますと、... 従属変数としての時間(反応潜時、学習所要時間など)は物理的には比尺度ですが、じっさいには“反応 の遅さ”に関する心理量ということになるのではないでしょうか。 だから、“非線形変換によって重要な性質が損なわれる(fpr421:南風原さん)”ということを承知して いても、対数変換をした上で分散分析にかけたりしますよね(誤反応数を開平変換するのも同様)。 それと、反応時間や学習所要時間の代表値としては平均よりも中央値で比較することがあると思います。 これなども、かけ離れた測定値があるような測定値については、順序尺度的に扱ったほうがよいという意 味で、上記の(1)と(3)の例になると思います。 fpr420の岡本さんの発言と、これに対するfpr421の南風原さんの発言は、結局上記の(3)に行き着くので はないでしょうか。 最後に、fpr419で南風原さん: >5歳の子供が10歳になるまでの時間と,50歳の大人が55歳 >になるまでの時間が同じ量の時間だという意味において,研究の >出発点でも終点でも年齢は比尺度と考えられるということです。 これって、比尺度ではなく間隔尺度の性質ではありませんか? 何だか学生に教える自信がなくなってきた...。 ===========================署名簡易版========================== 長谷川芳典 http://www.okayama-u.ac.jp/user/le/psycho/member/hase/h0u.html ==============================================================
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