南風原です。私の下記の文 >クイズの正答数をテスト得点とみなす場合,古典的テスト理論で >は,その得点を間隔尺度のように扱って,信頼性などを定義して >います。[fpr 416] に対して,岡本さんから以下のようなコメントがありました [fpr 422]。 >> 信頼性を求めるためには間隔尺度以上でなければならないとす >> る考えがあるとすれば、極端過ぎるのではと思います。求めら >> れた指標が心理学的にどのような意味付け、あるいは解釈でき >> るかは別の問題です。 心理統計では尺度水準の問題にこだわりすぎだという指摘は同感で す。心理学で用いる変数の水準を決定するのがしばしば困難であり, 尺度水準自体の共通理解も不足しているとしたらなおさらです。 私が言いたかったのは,信頼性係数は原理的に間隔尺度を前提とし ている,ということです。信頼性という指標はもとの変数に非線形 変換を施したら,値が変化してしまいますから,どんな単調変換を も許容する(そのことによって尺度の性質が損なわれない)順序尺 度では,原理的に言って,その任意の変換のもとでの信頼性を算出 して意味付けをするのはおかしいということです。 おそらく,私達が扱っている変数の多くは,任意の単調変換を許容 するような順序尺度でもなく,線形変換のみを許容するような間隔 尺度でもないが,後者を前提とした手法を多く用いているというこ と,そしてそれでも大きな支障はないようだ,ということではない でしょうか。ただ,それはそれとして,使用している方法の結果が, 変数に対するどういう変換に対して不変な結果を与えるものかは知 っておく必要があると思います。 >> 統計量も、単に数値の分布の状態を示すものとして、数値の集 >> まりに対する処理として行う考え方もあります。 私もそう考えています。このとき「数値」について,これに任意の 単調変換をしても数値のもつ情報は不変という主張(順序尺度とい う特徴づけ)が正当なものなら,そういう変換のもとでも不変な結 果が出るような統計を工夫しよう,ということで順序情報のみに基 づく様々な手法が生まれたということでしょう。(正規性の仮定が 満たされない場合の方法という意味もありますが。) 長谷川さん [fpr 423]: >> 最後に、fpr419で南風原さん: >> >5歳の子供が10歳になるまでの時間と,50歳の大人が55歳 >> >になるまでの時間が同じ量の時間だという意味において,研究の >> >出発点でも終点でも年齢は比尺度と考えられるということです。 >> これって、比尺度ではなく間隔尺度の性質ではありませんか? >> 何だか学生に教える自信がなくなってきた...。 年齢には出生時を0とする原点がありますから,間隔尺度で許容する 線形変換y=ax+bを施すと,bが0でない限り,その変数のもつ 性質が損なわれ,たとえば任意の2つの値の比が変換の前後で変わっ てしまいます。 同じく長谷川さん [fpr 423]: >> 従属変数としての時間(反応潜時、学習所要時間など)は物理的 >> には比尺度ですが、じっさいには“反応の遅さ”に関する心理量 >> ということになるのではないでしょうか。だから、“非線形変換 >> によって重要な性質が損なわれる(fpr421:南風原さん)”という >> ことを承知していても、対数変換をした上で分散分析にかけたり >> しますよね(誤反応数を開平変換するのも同様)。 認知的処理の負荷とか困難さという心理学的変数の測定値としての反 応時間ということですね。時間が100倍かかったからと言って,負 荷が100倍かどうかは不明だが,少なくとも順序情報のみは意味が ある,ということでしょうから,順序尺度的に扱えばよいのでしょう。 このとき,順序情報のみを利用したノンパラメトリックな方法を用い るのは理にかなっていますが,特別な変換をしてパラメトリックな方 法を用いるというのは,ノンパラメトリックの近似として用いるので なければ,推測統計の仮定上の要請を越えた正当化が必要ではないか と思います。
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