[fpr 483] Kyoushin Sympo

豊田秀樹

豊田@立教社会です

過日筑波大学で開催された教育心理学会のあるシンポジュームに参加して
「関心・意欲・態度」の評価について意見を求められ,以下のような
発言をしました(以下は当日の発表用メモです).このメーリングリスト
の主旨からは多少外れますが心理測定・教育評価に関心のある方も多いと
思いますので,何かご意見がいただければ幸いです.

平成4年度の学習指導要領の改訂とともに,通知票の形式も改訂され「関心・意欲・
態度」の評定が行われるようになった.「知識・理解」の評価ばかりでなく学習者の
関心や意欲や態度が,どのような状態にあるかを評価することは大切である.教え方
を工夫する際の拠り所となるし,折りに触れての子供とのつき合いを通じて指導に生
かすことができる.「関心・意欲・態度」は,もともと古くから思慮深い教育場面で
日常的に行われてたインフォーマルな形成的・教育的評価の観点である.しかし,通
知票にフォーマルな評定を要する評価がなされるようになり,教育現場に無益な混乱
と弊害が生じている.

まず「何を評価するのか」の共通認識ができていない.構成概念の内容に関して,評
価する側が不明確なのでは評定の意味が無い.評定される子供に対しても失礼なこと
である.

次に「どのように評価するのか」確立されていない.熱心で誠実な評価者ほど,黒澤
(1996)で報告されたように,子供の発言の記録を書き写したり,板書の写真を保存し
たりと客観性を保とうとする.しかし,それでは学校の先生に膨大な事務を負わせる
ことになる.「関心・意欲・態度」の評価は,先生が余裕をもって子供と触れ合い,
じっくり時間をかけて教育的含意を醸造し,適切な時と場所を選んで子供にインフォ
ーマルに伝えることによって教育的効果が高まる性質のものである.客観性を保とう
と事務量を多くしたら,逆に指導に生かす余裕が先生にはなくなってしまう.

そして「何のために評価するのか」が不明である.そもそも「関心・意欲・態度」に
関して通知票で「努力しよう」とか「がんばろう」とか外発的な評定をしても,形成
的・教育的評価として役に立たない.それどころか,全教科に「関心・意欲」が高い
ことが望ましい状態でもあるまいに,それが望ましい状態であるという間違った印象
を子供に与える.更に「知識・理解」の評定が低く「関心・意欲・態度」の評定が高
い場合は「君はがんばっても,だめなんだ」という希望のない評価を与えていること
になる(豊田,1996).また受験の年には音楽や美術の先生に質問に行く生徒が増
えるのと同じ理由で,不必要に意欲的に質問したり,誇張した関心を示したりと,受
験を控えた子供の行動は「関心・意欲・態度」が評定されることによって歪んでしま
う.「知識・理解」とは違い「対策」の立て易い特性だからである.

「関心・意欲・態度」のインフォーマルな形成的・教育的評価は重要であり,今後ま
すます重視され,研究されるべき評価観点であるが,通知票におけるフォーマルな評
定には弊害が多い.現在の学習指導要領の下では,全ての子供に一番良い評定をつけ
るなど「良心的評定拒否」をして,その本質を子供と家庭に早い段階で知らせるべき
である.

「なぜ評定をしなければならないのか,評価だけで評定しなくてもいいではないか」
という上記の問いに対して,シンポジュームに参加していた指導要領の改訂に関わっ
たというある先生は,改訂時の裏話として
「どうせ現場の先生は,評価だけさせていたのでは本気にならないので,評定させるこ
とにした」と答えていた.小生はこの発言を非常に傲慢な発想だと思った.
パネラーとして参加していたある小学校の先生は「豊田さん,指導要領はどうするの
ですか.それをなくしてくれれば豊田さんの側につきますよ」といってくれた.

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Hideki TOYODA Ph.D., Associate Professor,      Department of Sociology
TEL +81-3-3985-2321 FAX +81-3-3985-2833, Rikkyo (St.Paul's) University
toyoda (at) rikkyo.ac.jp  3-34-1 Nishi-Ikebukuro Toshima-ku Tokyo 171 Japan                                  
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