[fpr 588] 議論のきっかけ

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 共分散構造分析モデルのfprにおける皆さんの議論展開を楽しみにしていま
す.実際に使ってみると,すぐにいくつかの議論を指摘したくなる手法ですが,
そのうち1つだけ,初めて使ったときのユーザーの「感想」を書いてみたいと
思います(といってもその後不勉強で進展なしですが,今のうちに初歩問題を・
・・).

 私と周辺の人々が共分散構造分析を質問紙調査データに適用しはじめたのは,
明白に,豊田『SASによる・』の出版と,豊田他『原因を・』の,あまりの分か
りやすさが原因です.そしてその全ての人が最初に適合度基準に関する,あの
有名な「GFI>0.9」に苦しみました(豊田基準と呼んでみます).
 そこで,LM検定やワルド検定でモデル模索(?)をした結果,ほとんど常に
GFIと引き換えに観測変数の個数が少なくなることに不満を持ちました.ちょ
うど因子分析で,同じデータなのに,主成分法の回転解はそこそこきれいな単
純構造が得られ変数が分類されるのに,最小2乗法や最尤法の回転解ではいく
つかの観測変数が外れる事態にも似ています(これは良い発見なのですが).
 せっかく調査した変数を,ほとんど豊田基準を達成するためだけに,説明か
ら除外するのは忍びないというわけです.そこでどうやってあきらめたかとい
うと,多くの調査が探索的段階で実施され,仮説を発見したい意図で作られて
いるからだ,ということにしました(実際,多くの企業の調査がそうです).
共分散構造分析は探索的なデータ解析法ではないとの判断です.

 ところが,いくつかの事例を拝見すると,うまいテクニック(?)が使われ
ています.質問紙調査で多くの項目を測定しておきながら,共分散構造分析モ
デルでは,項目群の合計点などの「合成変数」を「観測変数」とするのです.
アルバクルがAMOSのデモで使ったマーケティング調査データの事例もそうでし
た.こうなると測定項目を捨てずにすみます.しかも期せずして,質的変数が
量的変数のようにもなります(期しているのかな?).
 しかし合成変数は潜在変数ではないのか?.インチキ臭い気がしてシラケま
した.でも,そうやって皆さんは切り抜けているのでしょうか?.相関の高い
変数群の合計点や第1主成分を「観測変数」としていいのなら,上の問題はほ
とんどの場合に解決できます.もともと抽象的な質問文を合成して,抽象的な
観測変数名をつけて,その観測変数を説明する因子(潜在変数)には,一段と
抽象化された名前(概念)を構成することになる.それでもリアリティーのあ
りそうな調査もあります(イメージ調査など).
 小笠原春彦(1990)「共分散潜在構造モデル」は,これに関連して「その変数
が,観測される変数だけの関数であらわすように方程式を操作することができ
ない時にその変数を潜在変数と呼ぶ」(ベントラー(1982))を引用し,「主
成分や正準変量は,...潜在変数ではない」と述べました.興味をそそるの
ですが善悪は語っていません.
 こうなると,主成分分析や正準分析は共分散構造分析の予備解析に使うこと
になるかも・・・.こういう探索的アプローチは共分散構造分析の精神に反す
る?

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鈴木 督久 ( Tokuhisa SUZUKI )   日経リサーチ  集計解析室
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