豊田@立教社会です 昨日配達された「教育心理学研究」誌の浦上氏の最新論文を読み,とても驚きま した.私がFPRを通じて配信した浦上論文へのコメントを1部取り入れたような 分析をすでに展開していたからです.当然ながら私のコメントとは独立になされ た改良です.もともと興味深い論文内容だったのでコメントさせていただいたの ですがこの場を借りて改めて浦上氏に敬意を表します.といっても本人には届か ないかもしれませんね. Kano Yutaka <kano (at) math.tsukuba.ac.jp> さんは書きました: >狩野@筑波大学です >共分散構造分析のよい点ばかりを強調してきましたが,克服すべき問題点も多く >残されています. >\renewcommand{\labelenumi}{d-\roman{enumi})} >\begin{enumerate} >\item {\bf 適合度の評価:} 本稿では,モデルの適合度の評価方法として,カイ >2乗検定,GFI, CFI などを紹介しました.実は,適合度指標として30以上も >提案されており,理論的に「これ」というものは未だ定まっていません.適合度 >指標に関して1冊の本が出版されています[Bollen-Long 1993]. 私はRMSEAが台頭すると思います.指標としての欠点がほとんどありま せんし,Browne and Cudeck 1993 の影響力がとても大きいことが他の文献から 感じられます.他のビッグネームの研究者が評価し,ソフトに取り入れているから です.ただロジックが「候補のなかに真のモデルがない場合のAICの分布」 に似ているので(これは80年代前半から議論されている),Browne氏はAIC をヒントにしているかもしれません. そして何といってもGFIだと思います.GFIは,Tanaka Huba 1989でガンマ 指標の特別な場合に一致する非心分布を利用した指標の一つとして再解釈され, 生まれ変わっています.信頼区間もシーパスで求まります(この辺の事情はシー パスのマニュアル(山口氏訳)が日本語なので読みやすいです.GFIは今や 記述統計的指標ではなくなりました. RMSEAとGFIは,観測変数の数が多くなるとモデルの自由度が大きくな って,値が悪くなりがちになり,不当に印象が悪くなるという欠点以外は ほとんど欠点が無いと思うのですがいかがでしょう.これが克服できれば 大発見なので,私も一矢報いたいのですが,,,,みんなが追いかけている のになかなか解決しません. >\item {\bf 同値モデル:} 相関係数は2つの変量に関して対称ですから,相関係 >数だけから因果の方向を決定することはできません.この事実は,2つのモデル > $V_1=\beta V_2+e$ と $V_2=\beta V_1+e$ が同値になる(データから区別でき >ない)ことに起因しています.このように,関心のある因果モデルが互いに同値 >モデルになっていると,どのモデルが優れているか決定できないという問題があ >ります.そのようなときには,興味ある因果が決定できるよう因果モデルを再構 >成する必要があります.同値モデルに関して1冊の本が出版されています >[Bekker-Merckens-Wansbeek 1994]. この本には,判定用のプログラムがついていて,実用的には同値モデルの判定は 決着しています.しかし理論家としてはもう少しきれいな,ルールが欲しいとこ ろです.少し観測変数がふえてもSEMのモデルはしらみつぶしには計算できず, もっと適合の良いモデルがあったかもしれないという懸念が常に残ります. だからこの状態で「同じ適合度のものがある」という指摘はほとんど意味が無い のです.何故,同値モデルが注目されるのかちょっと不思議です. >\item {\bf 因果決定について:} 共分散構造分析で因果関係が本当に立証される >のか,という疑問がいつも問い掛けられます.Bollen (1989, page 72)は「共分 >散構造分析ができることはモデルを棄却することだけである」と言っています. >また,「共分散構造分析が causal modeling と呼ばれることは不幸なことである. >この分析法が因果のメカニズムを立証することはできないのである.」(Bagozzi- >Haumgartner 1994, page 417) という意見もあります.共分散構造分析は基本的 >に非実験データ(nonexperimental data) の分析方法です. ロゴサというひとは casual modeling と皮肉っています.ミューテンは, 「SEMは平均・共分散構造を分析する強力なツールであり,causal という 言い方は止めた方がいいし,やめても十分有用である」とあっさりしています. この問題は,WSまで真剣に考えて,心理学分野でSEMを使って投稿する人 審査するひとの明確なガイドラインを提示したいと思います. >「比較としてこのモデル >がよい」「因果関係について示唆が得られる」という謙虚な結論が望ましいよう >に思えます.欧文誌 Journal of Educational Statistics (1987, Number 2) で, >共分散構造モデルのような因果モデルによる解析の価値について大激論が交わさ >れています.一読の価値があります. >\end{enumerate} 先週,豊田ゼミ合宿が有り,上記の特集をみんなで集中的に読んできました. ディベートとしては,「反対側」有利という判定でした.ゼミ生たちは 「特にベントラーの議論が感情的過ぎる」といっていました.私もそう思いました. ---------------------------------------------------------------------- Hideki TOYODA Ph.D., Associate Professor, Department of Sociology TEL +81-3-3985-2321 FAX +81-3-3985-2833, Rikkyo (St.Paul's) University toyoda (at) rikkyo.ac.jp 3-34-1 Nishi-Ikebukuro Toshima-ku Tokyo 171 Japan ----------------------------------------------------------------------
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