[fpr 598] 議論のきっかけ

狩野裕

狩野@筑波大学です

In message <9701251019.AA00381 (at) toyoda.rikkyo.ac.jp>
   "[fpr 590] Re: 議論のきっかけ"
   "toyoda (at) rikkyo.ac.jp" wrote.

toyoda> Kano Yutaka <kano (at) math.tsukuba.ac.jp> さんは書きました:
toyoda> >狩野@筑波大学です
toyoda> >共分散構造分析のよい点ばかりを強調してきましたが,克服すべき問題点も多く
toyoda> >残されています.
toyoda> >\renewcommand{\labelenumi}{d-\roman{enumi})}
toyoda> >\begin{enumerate}
toyoda> >\item {\bf 適合度の評価:} 本稿では,モデルの適合度の評価方法として,カイ
toyoda> >2乗検定,GFI, CFI などを紹介しました.実は,適合度指標として30以上も
toyoda> >提案されており,理論的に「これ」というものは未だ定まっていません.適合度
toyoda> >指標に関して1冊の本が出版されています[Bollen-Long 1993].
toyoda> 
toyoda> 私はRMSEAが台頭すると思います.指標としての欠点がほとんどありま
toyoda> せんし,Browne and Cudeck 1993 の影響力がとても大きいことが他の文献から
toyoda> 感じられます.他のビッグネームの研究者が評価し,ソフトに取り入れているから
toyoda> です.ただロジックが「候補のなかに真のモデルがない場合のAICの分布」
toyoda> に似ているので(これは80年代前半から議論されている),Browne氏はAIC
toyoda> をヒントにしているかもしれません.
toyoda> そして何といってもGFIだと思います.GFIは,Tanaka Huba 1989でガンマ
toyoda> 指標の特別な場合に一致する非心分布を利用した指標の一つとして再解釈され,
toyoda> 生まれ変わっています.信頼区間もシーパスで求まります(この辺の事情はシー
toyoda> パスのマニュアル(山口氏訳)が日本語なので読みやすいです.GFIは今や
toyoda> 記述統計的指標ではなくなりました.

やはり,RMSEAですか.私も注目しています.AICとの違いは,予測分布を導入して
いない点だと思います.一度,共分散構造分析のコンテキストで,AICは具体的に何をし
ていることになっているのかをまとめてみたいと思っているのですが,なかなか時間が取れ
ません.もちろん,一般の $f(x|\theta)$ における議論はクリアですよね.

赤池氏が,時系列分析におけるARプロセスの次数決定法であるFPE(final prediction 
error) の考え方が,因子分析における因子数の選定に使えないか,ということを考え,「因
子分析におけるFPRとは何か」ということを考えあぐねた末,編み出したのがAIC基準
だ,という記事を読んだことがあります.このように,AICが生み出されたきっかけに因
子分析がありながら,因子分析でのAICの適用についてはすこぶる評判が悪いし,共分散
構造分析でもあまり用いられていませんね.その原因を原点に返って勉強してみたいのです
.

GFIやAGFIはよくできた指標と思います.Tanaka-Huba (1989) の論文では,回帰分析
と共分散構造分析の対応が議論されており,特に,GFI は 決定係数に,AGFI は自由度調整
済みの決定係数に対応することが示されていますね.この対応は昔から予想されていたもの
の, explicit にやったのは彼らですね.

% J.F.Tanaka が交通事故でなくなったのは,この分野では大きな損失ですね.数少ない 
Bentler氏の優秀な弟子でした.Bentler-Weeks model の Weeks も行方不明と聞いています
. 

非心パラメータと適合度指標との対応は McDonald(1990) や Bentler(1990) で議論されてい
ますが,どうも数学的にしっくりきません.Browne氏を除いて,非心カイ2乗分布への収束
の derivation が分かっていないのではないか,という疑いをもつことがあります.

この議論の最後にあるのが区間推定ですね.この区間推定はインパクトがあるようで,今後
たくさんの文献で報告される可能性があります.ただ,nを大きくすると,区間の幅が縮小
するのと同時に,区間自体が0へ近づいていきます.これは,対立仮説の下でのモデルとし
て,contigious alternative (local alternative)を採用していて,nが大きくなるとnull 
model に近づく性質があるというのが理由なのですが,皆さんの直感に合うでしょうか.で
も,現在のところ使えるものはこれしかないのだからどうしようもありませんね.

% BIGになると敵を多く作る中で,Browne氏には表立った敵はいないですね.なぜなんだ
ろう.南アフリカという地理的にも遠い場所にいたからでしょうか.やはりパーソナリティ
でしょうか.よく言われる格言で次のようなものがありますが:「外国のビッグに論文を誉
められているうちは大した仕事ではない.欠点を突つかれはじめると本物である」 

toyoda> RMSEAとGFIは,観測変数の数が多くなるとモデルの自由度が大きくな
toyoda> って,値が悪くなりがちになり,不当に印象が悪くなるという欠点以外は
toyoda> ほとんど欠点が無いと思うのですがいかがでしょう.これが克服できれば
toyoda> 大発見なので,私も一矢報いたいのですが,,,,みんなが追いかけている
toyoda> のになかなか解決しません.

GFIについてはその通りだと思います.豊田さんがおっしゃっているRMSEAは,モデ
ルの自由度で割ったものですか?私は,観測変量の次元pが大きいデータを直接扱ったこと
がないのでよく分からないのですが,自由度で割り,1自由度あたりの残差ということにす
れば,その傾向はやや,改善されると思います.ただ,pが大きいと,本質的にフィットが
悪くなることが容易に推察されますが....

toyoda> 
toyoda> >\item {\bf 同値モデル:} 相関係数は2つの変量に関して対称ですから,相関係
toyoda> >数だけから因果の方向を決定することはできません.この事実は,2つのモデル
toyoda> > $V_1=\beta V_2+e$ と $V_2=\beta V_1+e$ が同値になる(データから区別でき
toyoda> >ない)ことに起因しています.このように,関心のある因果モデルが互いに同値
toyoda> >モデルになっていると,どのモデルが優れているか決定できないという問題があ
toyoda> >ります.そのようなときには,興味ある因果が決定できるよう因果モデルを再構
toyoda> >成する必要があります.同値モデルに関して1冊の本が出版されています
toyoda> >[Bekker-Merckens-Wansbeek 1994].
toyoda> 
toyoda> この本には,判定用のプログラムがついていて,実用的には同値モデルの判定は
toyoda> 決着しています.しかし理論家としてはもう少しきれいな,ルールが欲しいとこ
toyoda> ろです.少し観測変数がふえてもSEMのモデルはしらみつぶしには計算できず,
toyoda> もっと適合の良いモデルがあったかもしれないという懸念が常に残ります.
toyoda> だからこの状態で「同じ適合度のものがある」という指摘はほとんど意味が無い
toyoda> のです.何故,同値モデルが注目されるのかちょっと不思議です.

より良い適合のモデルを捜す方が大変ですよね.ベストは,同値モデル+より良いモデルの
一覧が出ればいいんでしょうけど,それは難しい.それなら先ず同値モデルの一覧が出れば
,それなりに役に立つでしょう,というぐらいの考えではないでしょうか.それと,初級者
には,因果分析の難しさを教えるには,簡単な同値モデルは分かり易いと思います.


toyoda> 
toyoda> >\item {\bf 因果決定について:} 共分散構造分析で因果関係が本当に立証される
toyoda> >のか,という疑問がいつも問い掛けられます.Bollen (1989, page 72)は「共分
toyoda> >散構造分析ができることはモデルを棄却することだけである」と言っています.
toyoda> >また,「共分散構造分析が causal modeling と呼ばれることは不幸なことである
.
toyoda> >この分析法が因果のメカニズムを立証することはできないのである.」(Bagozzi-
toyoda> >Haumgartner 1994, page 417) という意見もあります.共分散構造分析は基本的
toyoda> >に非実験データ(nonexperimental data) の分析方法です.
toyoda> 
toyoda> ロゴサというひとは casual modeling と皮肉っています.ミューテンは,
toyoda> 「SEMは平均・共分散構造を分析する強力なツールであり,causal という
toyoda> 言い方は止めた方がいいし,やめても十分有用である」とあっさりしています.
toyoda> この問題は,WSまで真剣に考えて,心理学分野でSEMを使って投稿する人
toyoda> 審査するひとの明確なガイドラインを提示したいと思います.
toyoda> 
toyoda> >「比較としてこのモデル
toyoda> >がよい」「因果関係について示唆が得られる」という謙虚な結論が望ましいよう
toyoda> >に思えます.欧文誌 Journal of Educational Statistics (1987, Number 2) で,
toyoda> >共分散構造モデルのような因果モデルによる解析の価値について大激論が交わさ
toyoda> >れています.一読の価値があります.
toyoda> >\end{enumerate}
toyoda> 
toyoda> 先週,豊田ゼミ合宿が有り,上記の特集をみんなで集中的に読んできました.
toyoda> ディベートとしては,「反対側」有利という判定でした.ゼミ生たちは
toyoda> 「特にベントラーの議論が感情的過ぎる」といっていました.私もそう思いました
.

おっしゃるとおりで,ロゴサはアンチSEMといってよいでしょう.彼の講演は,身振り手
振りで壇上を走り回るドタバタ劇です.言ってみれば,吉本新喜劇のようです(私は好きで
すが).ロゴサは,「Ballad of the casual modeler」 なる歌を作詞・作曲しています.

When I was a student 
in seventy-three
I heard of new ways
to do psychology

If you had you some data
and you didn't need that much thinkin'
you just draw in the path
....

(全部タイプするのは大変...)

% R大の学生は優秀ですね.

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 狩野  裕 (筑波大学数学系)      Phone&Fax: 0298-53-4229(DI)
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  e-mail: kano (at) math.tsukuba.ac.jp     
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