[fpr 612] 議論のきっかけ

豊田秀樹

豊田@立教社会です

冠名語句が話題になっていますが,日本では有名ではなくても海外で知ら
れているものもあります.IKestimator は因子分析の独自分散の推定量
の一つで,日本語訳は聴いたこと有りませんが,「猪原・狩野推定量」で
しょう.それから教育測定分野でS−P表理論のことを,佐藤メソッドと
呼ぶひとが多いことをAERE総会で知りました.日本で生まれたテスト
理論は海外での方が評価が高いのは,むしろ悲しむべきことです.

Kano Yutaka <kano (at) math.tsukuba.ac.jp> さんは書きました:
>狩野@筑波大学です
>% J.F.Tanaka が交通事故でなくなったのは,この分野では大きな損失ですね.
>数少ない 
>Bentler氏の優秀な弟子でした.Bentler-Weeks model の Weeks も行方不明と
>聞いています. 

イリノイで在外研究をしていたときに日系で(日本語は話せなかったそう
です)分野も近いので,研究室を訪れようとした矢先に,郊外で自動車事
故にあわれました.ゼミ生が大学中にビラをはって捜索したのですが,間
に合いませんでした.学部葬はみぞれの日だったのに,急きょ第2会場を用
意する程の人出で彼の人徳が伝わってきました.

> BIGになると敵を多く作る中で,Browne氏には表立った敵はいないで
>すね.なぜなんだ
>ろう.南アフリカという地理的にも遠い場所にいたからでしょうか.やは
>りパーソナリティ
>でしょうか.よく言われる格言で次のようなものがありますが:「外国の
>ビッグに論文を誉
>められているうちは大した仕事ではない.欠点を突つかれはじめると本物
>である」 

理由は2つだと観察しています.1つは人柄.お会いする機会があったのです
が,くつろいだ雰囲気をお持ちでした.「趣味は何ですか」と尋ねると,しば
らく考えてから「ありません」とおっしゃる.「やはり研究第1ですか」とぶし
つけなことを聴くと,今度は即座に「第1は家族です」と言われてしまいました.
第2は圧倒的な実力でしょう.力の差がありすぎてBrowne氏と争うフアイトは
わかないのだと思います.

>「GFI>0.9」について.この手のものは理論的根拠が導けなく経験に頼ることになる
>のでしょうか.しかし,この基準は,国際的にもこの線で落ち着いているようです.
>「GFI<0.9」の論文はあまり見たことありません.ただ,観測変量が多すぎると話は
>別ですが.

0.9という目安は,経験的には微妙なバランスの産物だと思います.学術投稿
論文には観測変数の数が50とか100の論文はほとんど載らないので,それで
済んでいるのです.むしろ観測変数が少ないとき(これは投稿論文でよくある)
に基準として甘すぎるのが問題で,「GFI>0.9」だからそれで良いと済ませて
しまわないようにすべきです.逆に30近い変数を使ってすっきりしたパス
図で「GFI>0.9」を出していれば,たいしたものだと思います.この不公平感
を何とかしたいのですが,,,,,

>toyoda> RMSEAとGFIは観測変数の数が多くなるとモデルの自由度が大きくな
>toyoda> って,値が悪くなりがちになり,不当に印象が悪くなるという欠点以外は
>toyoda> ほとんど欠点が無いと思うのですがいかがでしょう.これが克服できれば
>toyoda> 大発見なので,私も一矢報いたいのですが,,,,みんなが追いかけている
>toyoda> のになかなか解決しません.
>
>GFIについてはその通りだと思います.豊田さんがおっしゃっているRMSEA
>は,モデルの自由度で割ったものですか?私は,観測変量の次元pが大きいデー
>タを直接扱ったことがないのでよく分からないのですが,自由度で割り,1自由度
>あたりの残差ということにすれば,その傾向はやや,改善されると思います.
>ただ,pが大きいと,本質的にフィットが悪くなることが容易に推察されますが.

通常,観測変数に比例してパス図は大きくなりますから,母数の数は非常に大ま
かにいって観測変数に比例して多くなります,しかし説明すべき分散共分散は
2乗に比例して大きくなります.100位の観測変数に対して,見た目に非常に
大きなパス図を書いて,母数を100とか200使っても,説明すべき共分散は
5000位もあるわけで,「本質的に」フィットが悪くなります.統計学的には
それでいいのです.しかしモデル構成に要した苦労や,心理学的吟味の苦労に対
して不当に印象の悪い結果しか出ないのは心理学者(モデル構成者)としては
納得できないのです.ここまでは狩野さんと共通認識だと思います.

問題はモデルの自由度で割ったRMSEAがこの問題を解決するかということ
です.もし解決できれば,論文や報告書にもっとおおきなパス図が乗り始める
から,楽しくなります.しかし残念ながら私もRMSEAの存在を知った後に,
観測変数の多いデータでモデル構成をしたことがないので,以下は想像です.

まず,たとえばAICがカイ2乗から自由度(の2倍)を引いているのに対して,
RMSEAは大まかに言ってカイ2乗から自由度を引いて,それをさらに自由度
(と標本数)で割って,しかも平方根をとるので,改善の方向にあることは確
かです.平方根をとれば絶対値が小さくなって,相当印象が良くなります.

しかし観測変数の共分散1つ当たりの適合が,観測変数の増加の伴っ
て悪くなるのですから不適合の目安を共分散の数で割ったのでは,上記の不公
平感には追いつかない道理となり,「自由度<共分散の数」だから,まだ足り
ないのではないだろうか.

最近のCALIS,SEAPATH,EQSなどで,大きなモデルの計算をし,
その出力が手元にあれば,RMSEAの具体的な数値が直ぐに
示せるのですが,,.

----------------------------------------------------------------------
Hideki TOYODA Ph.D., Associate Professor,      Department of Sociology
TEL +81-3-3985-2321 FAX +81-3-3985-2833, Rikkyo (St.Paul's) University
toyoda (at) rikkyo.ac.jp  3-34-1 Nishi-Ikebukuro Toshima-ku Tokyo 171 Japan                                  
----------------------------------------------------------------------

スレッド表示 著者別表示 日付順表示 トップページ

ここは心理学研究の基礎メーリングリストに投稿された過去の記事を掲載しているページです。