南風原@東大教育心理です。 堀さん [fpr 602] が,検出力(検定力)の問題から効果の大きさ (Effect Size, 以下,効果量とします)の推定の問題へと議論を 展開しています。その線に沿って,効果量の推定の問題を少し整理 しておきたいと思います。 分散分析の検出力を調べるため,Cohen (1988) は母集団における 効果量を (1) f=σm/σ と定義しています(σm は群平均の母集団値の間の標準偏差,σは 群内標準偏差の母集団値)。これは2群のときの効果量 (2) d=(m1ーm2)/σ を拡張したもので,2群のときはf=d/2となります。 一方,この母集団効果量fは,検定統計量Fの(対立仮説のもとで の)分布,すなわち非心F分布の非心度パラメタλと (3) f=sqrt(λ/N) という関係があります(Nは全群あわせた標本数)。 ここで,fの推定の問題ですが,狩野さんが教示して下さったように, λの不偏推定量が (4) λ^=[F*(df2−2)/df2−1]*df1 となることから,これを(3)に代入して,fを (5) f^=sqrt(λ^/N) によって推定することが考えられます(Fは得られたF値,df1, df2 は それぞれ分子と分母の自由度)。ただし,この方式ですと,fの2乗の 不偏推定は可能ですが,fの不偏推定はできません。また,λ^が負のと きはゼロで置き換えることにすると,λ^自体もλの不偏推定量ではなく なります。 堀さんが引用されている Kirk (1995) は,fを (6) f^=sqrt [(F−1)*df1/N] で推定しています。これは(1)の分子と分母それぞれの2乗を不偏推定し, その平方根をとって比をとる,といった,ヒューリスティックとでも呼 ぶべき方法で導いた式ですが,これは(4)の(df2−2)/df2 を近似的に 1とみなしたものに相当します。これもやはりバイアスをもっています。 ということになり,f自体の厳密な不偏推定量はこの中にはないわけで すが,(4)式に基づく(5)が理論的には最も良いと言えるでしょう。 なお,(3)から分かるように,fは非心度λをNで割った形の指標ですの で,(6)や SPSS 流の推定式のもつバイアスもNの増加に伴って小さくな っていくはずです。 :==============================================: : 南風原朝和 haebara (at) educhan.p.u-tokyo.ac.jp : : 〒113 東京都文京区本郷7-3-1 東京大学教育学部 : : TEL:03-5802-3350(直) FAX:03-3813-8807(共): :==============================================:
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