[fpr 656] 行動遺伝学

豊田秀樹

豊田@立教社会です

無藤氏(お茶大)より,私(豊田)の記事に対してコメントが寄せられているの
をKRのWWWで見つけました.幾つか意見を述べます.なおこの文章はKRと
FPRの両方に投稿します.

http://zenkoji.shinshu-u.ac.jp/mori/kr/muto0220.html

無藤>豊田さんの議論の多くはなるほどと勉強になりました。ただし、私の議論
無藤>は安藤さんの論文へのコメントではありません。守さんがそのような意味
無藤>で引用されたかも知れませんが、もっと一般的な私の考えであり、私が接
無藤>する教育関係者の「常識」に対するコメントです。したがって、安藤さん
無藤>の議論と無関係の多くのことが入っていますし、その上、段落観のつなが
無藤>りは飛躍しています。いくつかの論点を並行して言っているからです。そ
無藤>の点だけ、誤解をお正し下さい。
無藤>                      無藤

わたしが御自身の立場であれば,引用者への権利として,事情を知りえない第3
者への自発的な義務として,引用を知った時点で訂正を申し入れたでしょう.

無藤>そうそう、分散の半分くらいと言う表現はラフな言い方で、遺伝がもっと
無藤>効いているものも少ないものもあり、それをはっきりさせるのが行動遺伝
無藤>学の最重要な仕事であることはまったくその通りだと思います。言いたい
無藤>ことは教育的に普通重要だとされる特性の多くについて、遺伝と環境と同
無藤>じように決定的に効いていると言うことです。瓜の蔓にはなすびはならず、
無藤>とは遺伝で解釈するのが普通の人の思いこみだろうと私は想定しています
無藤>が、そうでないと思われる人もいるなら、実証研究が必要なのでしょう。
無藤>(心理学的には初期環境、特に親の養育は親と子の遺伝的共通性で相当程
無藤>度説明されるのではないでしょうか。) 

御説にはほとんど反論すべきところはありません.このまま議論を収束させても
よいのですが,1点だけ,お認め願いたいことがあります.それは「行動遺伝学か
らの知見は,教育に役に立つ」ということです.幾つか例を挙げます.

1.Y-G性格検査の O尺度−客観性の欠如(Lack of Objectivity)尺度は,男女
同じ割合で、共有環境と非共有環境から影響をうけ,遺伝的な影響はありません.
「遺伝の影響が無い」という結果は,客観性を身につけるためには教育が重要な
役割を果たすという解釈ばかりでなく,「男性のほうが生得的に客観的である」
という主張に対する科学的な反証になり,社員教育の研修プログラムを変更させ
る論拠となります.逆に,原因はセックスかジェンダーかという議論を,状況証
拠だけで続けると,水かけ論になります.

2.親子の相関が犯罪間で等しくとも,どのような犯罪因が共有環境からより影
響を受けているのかに関する正確な知識は,家庭裁判所の調査官が生まれた環境
に少年を戻すべきか,別の環境で教育すべきかを判断するのに有効な知識となり
ます.

3.短距離走の表現型は,遺伝的規定性が強く比較的低年齢で発現するのに対
して,長距離走の表現型の遺伝的規定性の発現年齢が遅い,という知識を持っ
ていれば陸上部の顧問が成績のよい生徒を見つけたときに,その種目が何である
かによって,彼の進路により良いアドバイスを与えられる可能性が高まる.

...

とりあえずこのくらいにしておきます.
「教育と関係ない」と断じられてしまうと,突き放されたような印象を受けます.
御自身の研究パラダイムはそのままに,行動遺伝学的な研究の教育研究としての
意義を認めてください.

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Hideki TOYODA Ph.D., Associate Professor,      Department of Sociology
TEL +81-3-3985-2321 FAX +81-3-3985-2833, Rikkyo (St.Paul's) University
toyoda (at) rikkyo.ac.jp  3-34-1 Nishi-Ikebukuro Toshima-ku Tokyo 171 Japan                                  
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