繁桝@東大、総合文化です. 3月18日に、心理、数理、生理アプローチの競合と協同というシンポが開かれました. 73名の参加者があり、鋭い議論もあり、有意義な会でした.(と思います.) その折に感じたこと、および、これまで考えて来たことをメモ風に書きます. 御批判頂ければありがたい. (1)あるシステム(例えば、人間)の入力変数をx1、x2、....xpとする. また、出力変数をy1、y2、、、yqとする.この間の関係を、 yj=fj(x1,x2,,,,xp) (+e)によって表す.これが数理モデルである. +eを必要とするかどうかは、測定誤差、個人差等の扱いに対する我々の態度の 表明であるが、人間相手ならば、この項があった方がパターンが見えやすいと思う. 数理モデルは、各変数の数値化する手続きがマニュアル化されているならば、 追試可能である.また、数理モデルそのものは、因果関係ではないが、時間的先行性、 偏相関的考察等、因果関係の同定に役立つ諸点のチェックが容易である. (2)入力変数をまとめて、ベクトルxとし、出力をベクトルyとする.上記の数理 モデルにおいて、y=f(x)+eとなる.(この場合のfは関数ベクトルのつもりですが、 細かいことは気にしないで下さい.) ここで、たとえば、y=f(r(x),s(x))+eとコンパクトに書けたとする.このrやsが 媒介変数である.媒介変数は、記述の簡約以上の意味を持たない. (3)ところが、ある場合には、xに還元できない新しい潜在変数tを導入することがある. すなわち、y=f(x,t)+e.この潜在変数は、理論の必要上構成された概念である. 留意すべきことは、tの次元をdとするとき、説明する変数の数が、pからp+dへ 増加している点である.(比喩的に言えば、主成分分析は、次元の数を減らすのに対し、 因子分析は、誤差因子を含めるとむしろ次元数を増加させているのに似ている.) 問題は、なぜ、わざわざ、このような潜在変数を導入するかである. (4)わかりやすい例は、現在、観測できていないから潜在変数であるが、本来は、 そこに存在しているはずだとして導入される場合である. この場合の例は、アドレナリンとか、中間子等である.(素粒子も?) モデルを作る人の頭の中にあった構成概念が陽の目をみることになる. (5)しかし、心理学の場合の潜在変数や、構成概念はこのような幸せな将来像を 描けない.すなわち、実態的な裏付けを将来も必ずしも保証されなくても 我々は潜在変数を導入する.これを正当化する理由として、2つ考える. (6)一つの理由は、潜在変数を導入するおかげで、モデルが簡単になるからである. 先述した、説明変数は大きくなると言うことと矛盾するようであるが、 実際に潜在変数を有効に利用するとモデルが格段に簡単になる場合がある. (7)もう一つの理由は、その構成概念が、モデル構成者の頭の中に存在するにしても、 それが、ある程度の普遍性を持ち、それを評価する人にも心当たりがあるからである. この場合、モデルは、了解可能となり、 かつ、他の人間に、モデルに描かれた因果性と言うか、ストーリーを評価する機会を 与え、実際に、そのとおりにアクションを起こしてみようかと言う気にさせるのである. (8)しかし、この理由によって恣意的に構成概念が導入されてよいわけではない. できれば、この構成概念を反映するxともyとも異なる、zと言う変数(ベクトル)を 測定し、潜在変数tとzとの関係を特定することが望ましい. (この意味で、今度のシンポでもっとも聞きたかったのが、機能的MRIの寄与が どの程度であるかと言うことであるが、素人がすなわち私が漠然と期待した程では ないと言う印象を受けた.空間的解像度の進歩は画期的であるにしても、構成概念の 区別、例えば、不安と恐怖の区別をすると言うわけでは現在のところなさそうである. ところで、このような目的でよく質問紙調査データがzとして使われるが、質問紙の 解釈は、やはり、モデル構成者の頭の中にあり、トートロジーである場合が 多いように思う. いずれにしても、質問紙データだけの研究で、入力変数も出力変数も存在しないと するとその研究を読む人は、どのようにして、その知見を実践すれば良いのか わからないのではないか.) 今度のシンポで、ボストン大学の渡辺武郎三が、精神物理学だけ、数理だけ、 生理学だけと言うような人は少数であると言う主旨のことを言っていました. 因果性とか質問紙のこともマルチに迫るのが良いのではないでしょうか.
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