岡本@金沢大学文学部です。
狩野@大阪大学さんの「[fpr 778] 直交解か斜交解か?」に関する補足です。
本ML(fpr)では、大筋の結論はでているのですが、私のメールについて
頂いたコメントに少し補足します。
>求まらないはずです.(岡本さんは議論を簡単にするためにこのモデルを選んだのでし
「TURBO Pascal」で用いたデータを生成するときに用いたモデルでは、観測変数は
7つです。また、因子の係数も1あるいは0というわけではなく、1あるいは0に
近い値で、観測変数ごとに少しずつ変えてあります。 データの生成に使用した
変数(因子)は直交3変数で、生成したデータの分析によって得られた因子空間は
2次元です。TURBO Pascal(1988, pp.131-135)にデータと解があります。
> モデル1 モデル2
>L P L P
>2 1 1 0 2.2 0 1 0.8
>2 1 0 1 2.2 0 0.8 1
>2 1 2.2 0
>1 2 0 2.2
>1 2 0 2.2
>1 2 0 2.2
>
>両モデルは,まったく同一の分散共分散行列を与えます.モデル1は直交解です.この
>解に斜交回転を施すと,モデル2かそれに近い値が出てくるでしょう.たとえ真の因子
>が直交していても,斜交回転すれば,因子相関は,近似的にでも0にはならないことが
>あるのです.逆に,モデル2のように真の因子が斜交であったとしても,美しい直交解
^^^^^^^^^^^
^
>が求まります.例外的に,完全な単純構造の場合はうまくいきくと思います.たとえば
^^^^^^^^^^^^
「美しい」の意味が明記されていません。
座標(2,1)と原点(0,0)、座標(1,2)と原点(0,0)を結ぶ直線は明らかに直交
していないので、モデル1がデータの分析結果として得られた場合は斜交解を求める
べき場合だと思います。すなわち、点(2,1)を通る因子G1と、点(1,2)を通る因子
G2を求めるのが斜交回転の考え方だと思います。
補足の補足:
「識別」の意味が明記されていないので、この点についての補足です。
私が「identifiability」という言葉を用いたときは、数理学習理論(特に、
Markovモデルを用いたもの)での言葉としてでした。モデルのパラメータが
データから一意に求まる、モデルにおける複数のステートが1つにまとめられない、
というときidentifiableといっていたと思います。
さて、因子分析の場合は、回転による不確定性がありますので、上記の意味では
そもそもidentifiabilityはありません。どの回転による解が真の因子なのかを決める
ことは一般的なモデルだけからでは無理です。Bi-factor theoryとか、ある種の
構造が設定されてidentifiableになるということはありますが。一般的なモデル
自体には回転における価値判断の基準がありません。単純な解がよいというのは、
分析者の価値判断です。回転によって得られるどの解を適当なものとするかと
いうことは、説明が可能であるなど、分析者の何らかの知見が必要です。もっとも、
回転による不確定性があっても、因子空間は固定されている、すなわち回転に
よって空間が変わるわけではないので、因子空間のidentifiablilityを問うことは
できますが。
岡本安晴
C00279 (at) simail.ne.jp
ここは心理学研究の基礎メーリングリストに投稿された過去の記事を掲載しているページです。