[fpr 788] '97日心ラウンドテーブル

豊田秀樹

豊田@立教大学です

話題提供をさせていただいた豊田です.関係諸氏・会場に足をお運びくださった皆
様に心より御礼申し上げます.

当日配布・回収したアンケートの幾つかに以下でお応えします.少し長文です.

日本能率協会:片岡さん「豊田先生のお話では構成概念を測定するときに,基準連
関妥当性抜きで考えられているように思えます.EX.集団同調傾向10点と20点の
人とでは実際の行動は如何違うか」

犯罪数のような発生数が基準変数になるような研究では基準連関妥当性はもちろん
重要です.当日の4節の話は私の実践例です.集団同調傾向のような構成概念の基
準連関妥当性は重要でも扱いづらくて現在のところ考慮できてません.

美作女子大学:坂井さん「道具適変数のx1:彼氏の容姿,x2:彼女の容姿はお
かしいんじゃないですか?『ぼくはこれだけかっこいいんだから愛されて当然,だ
から彼女をあまり好きにならない...とか』」

そのとおりです.まじめに受け取られてしまったようですが,あの例はジョークで
す.なぜなら「男と女でどちらがより好きか」という問いは,カップルによって違
いますから,,,,因果モデルとしては成り立ちません.

警察庁:島田さん+信州大学:守さん「実際の犯罪件数=認知された件数+暗数,
だから警官が増えると認知された発生件数は増えます.実際の発生件数はかわんな
いですけど」

これは違います.実際の発生件数が同じだったら,警察官が増えれば検挙数が増え
ることは事実です.しかし政策として犯罪多発地域に多くの警官を投入しているの
ですからそのときの目安のために係数を推定するのです.田舎町と新宿(ニューヨ
ーク)とを比較した場合に,島田さん・守さんの論が正しければ,新宿の犯罪の暗
数は田舎町より少なくなることになりますが,そんなことはないでしょう.警察官
の数が多くても新宿やニューヨークのほうが,田舎町より依然として犯罪の暗数は
多いのです.飽くまでも犯罪件数が多いからたくさん警官を投入し,それでも追い
つかないのが現状では...

東京大学:村井さん「質問にはまとめて答えるよりもその都度答えていただいたほ
うが分かりやすい」

おっしゃるとおりです.聞く方は分かりやすいし,答える方も答えやすいですね.
しかし残り時間が少なかったので,手を挙げた方全員に発言してもらうための市川
さんの配慮だったのだと思います

青山女子短大:工藤さん「実験データに対してどのように適用するのかというお話
も伺いたかったです.」

いつかどこかで展望してから発表します.それまでお待ちください.

フロア発言者1「動機付けと自己評価の関係を調べるための道具的変数に
は何が有りますか」

道具的変数の設定は機械的に出来るものではなく,その着想は論文構成の中で,あ
る意味での中心です.研究仮説の細かい具体的な性質にもよるので一般論として答
えられないということもありますが,研究者のセンスとアイデアの見せ場ですから
ああいう場で手を挙げて他人に質問しては,研究者としてつまらないのでは?

フロア発言者2「資料の以下の部分『第3の変数は構成される因果モデル
に対する要請によって意味が変わってくる.人事担当者の立場では「知能」と「経
済力」を統制する必要はないけれども,その代わりに地域差や性別や学校差に関し
ては様々なデータを集めて結果を一般化する必要が生じる.親の立場では,同じ因
果モデルでも,「知能」「経済力」を統制して比較する(たとえば年収その他の点
で似ている家庭の子供が,付属に行った場合と付属でない学校に進学した場合の事
例を集めて比較する)必要がある.その代わりに異なる母集団へ結果を一般化する
必要はない.』に関して,学術的に重要なのは前者の予測ではないだろう」

重要さに変わりはありません.

状況を可能な限り限定して第3の変数をたくさん統制するか,状況を限定せずに予測
に徹するかというという両極の方法の間に,両者の折衷の方法が無数にあり,その中
から現実の要請に従って方法を選ぶのです.

「自分の子供」にとって付属小学校はプラスかという限定条件をつけるならば,デー
タ解析的アプローチは答えをくれますが,「全国から無作為に選んだ子供」にとって
付属小学校はプラスかという後者の意味での因果関係は確認しようがありません.

状況を限定せずに(つまり全国から無作為に選んだ測定対象に関して)第3の変数を
統制し,厳密な因果関係を導くことが可能で,それが学術的に重要であるという考え
は錯覚です.不可能だからです.状況を限定しないことと第3の変数を統制すること
は正反対の行為です

教科書に載っている知見の多くは,納得・了解の基準で多くの研究者に一般化を許さ
れたものであり,その一般性はデータ解析から直接導かれたものではありません.

Keizo Hori <hori (at) ec.kagawa-u.ac.jp> さんは書きました:
>資料は全部で133部はけていました。ほとんどの人が豊田さんたちのブルーバ
>ックスの本を読んでいるということで,期待はそっちのほうにあったようです。
>そういう意味では期待がはずれたでしょうね。

150部刷り手元に7部戻りましたから,私をいれると144です.オーディエン
スが期待していたのはどういう話題ですか?参考のためにお教えください.

1対多のやり取りは体力的に限界がありますので,上記の返答に対する返答の返答は
ご容赦いただきたくお願い申し上げます.以上,最後に,上に名前を挙げられなかった
方たちからもたくさんのメッセージ・応援をいただきました.この場を借りて厚く御礼
申し上げます.

追伸:宣伝です.
当日,中心的話題であるはずのパスの引きかた,解釈の仕方に関して,言及しません
でした.実はそのための解釈マニュアルのようなものを現在作製しているのですが,
当日は時間の関係で,発表することができませんでした.その一部を

日本教育心理学会第39回総会(広島大学)
研究委員会シンポジウム2
演題:統計的データ解析のガイドラインをめぐって
日時:1997年9月25日(木) 9:30 から 12:00
会場:教育学部C201教室

で公開しますので,お時間おある方はお運びください.

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TOYODA Hideki Ph.D., Associate Professor,     Department of Sociology
TEL +81-3-39852323 FAX +81-3-3985-2833,   Rikkyo(St.Paul's)University
toyoda (at) rikkyo.ac.jp 3-34-1 Nishi-Ikebukuro Toshima-ku Tokyo 171 Japan
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