南風原@東大教育心理です。 ISHIDA Tsubasa さんが以下のように書いています。 >> 小牧順彌『データ分析法要説』(ナカニシヤ出版)の4章(pp46--52)に >> は,度数データを分散分析するという話が出ています.度数データは二項分布 >> に従うため,ある程度のデータ数があれば正規分布と見なせるというのがその >> 根拠のようです.この「ある程度のデータ数」は,各セル5以上が最低ライン >> で10以上あればほぼ大丈夫ということです. 上記の本のその箇所の解説にはいくつか問題があるように思います。 1回の試行結果は1−0だが,それを同じ被験体がn回繰り返せば,n回中 の成功回数xの確率分布(2項分布)が正規分布に近づく,したがって,そ のxを従属変数とすれば正規性の仮定が満たされる,という話ですが,これ は被験体を固定したときの確率分布であり,被験体の集合として母集団を考 えたときの母集団分布とは同じでありません。その辺の区別がなされていな いことが, >> これにのっとるならば,従属変数を「何人の被験者がそのカテゴリーを選択 >> したか」という度数データにするということでよろしいのではないでしょう >> か. というような解釈を生んでいるように思います。 また,上記の議論ではn回の試行の繰り返しが独立に同一の確率分布にしたが うことが前提ですが,52頁に以下のような記述があり,その前提が曖昧にな っているようです。 「例えば,ネズミのT型迷路実験で,位置の弁別を行わせるような場合,たい ていの被験体は10試行もあれば学習を完成してしまう。こんな場合,10試行以 上のデータのまとめを行うと,正規性の条件を満足するデータは得られるもの の,学習の進捗する経緯を捉えることはできないという本末を転倒した結果に なる。」 学習が進捗するのであれば,各回の試行は同一の確率分布では記述できないこ とになり,2項分布の条件を満たさないことになります。 :==============================================: : 南風原朝和 haebara (at) educhan.p.u-tokyo.ac.jp : : 〒113 東京都文京区本郷7-3-1 東京大学教育学部 : : TEL:03-5802-3350(直) FAX:03-3813-8807(共): :==============================================:
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