[fpr 877] データ解析と研究のリアリティ

豊田秀樹

豊田@立教大学です

試験の採点をしています.

a096 (at) mail.ipc.fukushima-u.ac.jp さんは書きました:
>佐藤達哉@福島大学行政社会学部です.
>ちなみにさらに悪のりすると,かつて話題になった
>>>  小牧順彌『データ分析法要説』(ナカニシヤ出版)の4章(pp46--52)
>で扱われていたネズミのT字路学習のデータに2項分布が使えるかという話題は,岩
>原著「教育と心理のための推計学」(1957)17章でも取り上げられており,Walk
>er & Lev 1953 Statistical Influence を参考にしたように思われます(未確認).

古典的名著で心理・教育データ解析に多大な影響を与えた岩原著「教育と心理のため
の推計学」(1957)ですが,誤解を恐れずにいうと,現在ではむしろ弊害を与え
ていると最近感じています.この本は,理論は知らなくても,丁寧な数値例が載って
いるので正確につかえるという意味で,とても良くできたクックブックです.しかも
通常使用する多くのデータ解析の操作が網羅的に書いてあるので,必要に応じて「答
え」を探せばいいという印象を与えます.データ解析を必ずしも専門としない心理・
教育の研究者の労力を著しく少なくする有り難い本でした.理論をブラックボックス
化しておいて,当面の間(30年間?)問題を先送りしました.50年代は日本は貧
乏だったし,圧倒的に遅れていたからその時代としては正しい選択でした.

そのつけは,今になって,統計的検定その他のマニュアル的使用による誤用の問題等
となって現れています.データ解析をすると心理学の研究のリアリティがなくなるな
どという間違った主張もなされ始めています.ブラックボックスとして使っておいて
リアリティがないというのは虫が好すぎます.これからは,日本も豊かになったし,
「網羅的」「ブラックボックス的」の逆のコンセプトの教科書が望まれます.スモー
ルステップで誰が読んでも(操作だけではなく)理論が解る本です.そういう本は
分厚くなるので,手法ごとに何冊も出す必要があります.岩原の本を1冊もってい
ればいいやという時代はそろそろ卒業すべきです.もちろんこの記事は自戒
のつもりで書いているのですが,最近では「網羅的」「ブラックボックス的」コン
セプトに,ソフトウェアの使い方をくわえた企画の本が多く出版され,益々,理論
を軽視する方向に向かっているように思えて,残念です.ソフトウェアはGUIの
おかげで,もう解説しなくても使いこなせると思うのですが,やっぱり売れるからで
しょうね.

少し前までは手計算に,ほんの少し前まで計算機の習得に当てていた時間を,今こそ
理論の理解に当てる時代が来た,と思っているのですが....

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TOYODA Hideki Ph.D., Associate Professor,     Department of Sociology
TEL +81-3-39852323 FAX +81-3-3985-2833,   Rikkyo(St.Paul's)University
toyoda (at) rikkyo.ac.jp 3-34-1 Nishi-Ikebukuro Toshima-ku Tokyo 171 Japan
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