[fpr 893] [fpr] 科目間平均点差問題

前川眞一

大学入試センターの前川です。

おたずねにありました分位点差縮小法についてお答えいたします。
なお、以下の見解は前川の私見であり、大学入試センターの公式見解とはずれる
かもしれませんのであらかじめお断りしておきます。

 今回、大学入試センターが用いた分位点差縮小法とは、大学入試センター試験
の選択科目の得点調整用に 1997 年度に 10 回ほど開かれた大学入試センターの
得点調整検討委員会が考案した方法のことです。

その概要は以下のようなものです。

 一つの教科(例えば理科)に、同じ満点を持つ p 個の選択科目のテストが含
まれる場合の例を用いて説明します。まず、これらのテストの得点を
 x_j, j=1,2,...,p
累積度数分布関数を
 G_j(x), j=1,2,...,p
とします。そして、この中で最高の平均点を持つ科目のテストを k とし、その
累積度数分布関数を
 T_(x) = G_k(x)
とします。
これらの記号を用いて等百分位法でテスト j をテスト k にあわせるように変換
を行うと、テスト j の x_j 点は以下のようにして y_j 点に変換されます。
 y_j = \inv{T}(G_j(x_j)), j \ne k
ただし、\inv{T} は T(x) の逆関数で、確率から得点を出す関数です。
分位点差縮小法では、変換後の最大平均点差を \alpha 点に押さえるために、
 w = 1 - \frac{\alpha}{ 最高平均点 - 最低平均点 }
で定義される重み(匙加減パラメタ) w を用いて
 z_j = w y_j + (1-w) x_j = w \inv{T}(G_j(x_j)) + (1-w) x_j, j \ne k
という形で行います。
また、 単純な等百分位法で
  y_j < x_j
となる場合には、
  y_j = x_j
とします。
この結果、変換後の得点
 (z_j,, j \ne k と x_k) 
は全て
 z_j > x_j
となり、それらの平均点の最大差が \alpha 点となります。
また、最低平均点を持つ科目のテスト以外のテスト得点も同じ w パラメタを用
いて調整されるため、変換後の平均点の順位は素点の平均点の順位を保存しま
す。




 この方法は、基本的には、等百分位法 (equi-percentile method) の変形(拡
張)ですが、分位点の差を完全に等しくしないために、分位点差縮小法
(reduced percentile method) と呼んでいます。
従って、基本となる考え方は、「同じ学力の子供が、同種の異なるテストを受験
した場合、受けたテストに関わらず、順位が同じなら得点も同じであるべき」、
ということです。

ただ、この等百分位法を現行の大学入試センター試験の選択科目に適用する場合
に、様々な問題が絡んできます。

 最も大きな問題は、我が国の民間信仰に絡むもので、テストの満点は 100 点
であり、その素点は神聖にして犯すべからずというもの(素点絶対主義)です。
このことから、得点調整、より一般的には、テストの尺度化は出来る限り行わな
い方が良い、行うとしたらそれは緊急避難的なものであるべきである、という考
え方が生まれてきます。

 また、この緊急避難的得点調整という考え方から、もし得点調整をおこなうと
しても、素点を下げない形で行うべきだという考えが派生してきますが、これは
現在行われている自己採点制度(大学入試センターは受験生へ得点を通知しな
い、各受験生は新聞に発表された正解と自分の回答の記憶を元に自己採点をす
る)とも深く関係しています。
すなわち、自分の(調整前の)得点を知っている受験生から「大学入試センター
が作った欠陥テストの修正のためにどうして私のテスト得点が下げられなきゃい
けないの」という反応が予測されるわけです。この拒否反応を少しでも和らげる
ために、得点調整は加算に限った方がよいというわけです。また、このことに関
連し、平均点の低い科目のテストが調整されて点が高くなると、それよりも少し
だけ平均点の高かった別の科目のテストの受験者から「どうして私たちの点は調
整してくれないの」という不満が出ることが予想されます。そこで、調整を行う
場合は全ての対象科目のテストの点を調整するということが考えられます。

 もう一つこの緊急事態的取り扱いに関連して、緊急事態と平常時の連続性を保
つために、全ての平均点差を詰めるのではなく、調整後もある程度の平均点差
( \alpha, グレイゾーン)を残した方がよいという考えがあります。これは、
例えば、 平均点差が 20 点以上の場合を緊急事態と見なすならば、平均点差が
22 点の場合にはそれが平均点差 0 点に調整され、 18 点の場合にはそのまま、
という事態を避けるための配慮です。


 最後に、選択科目受験者集団ごとの学力差の問題があります。
これは、例えば、「物理の平均点が高いのは物理を受験した受験生の理科の学力
が高いから当然である」、という考え方(これも民間信仰に近い?)をどう取り
扱うか、ということです。この点に関しましては、行動計量学会等でも南風原さ
んと何回か議論を重ねましたが、結論としては、選択パタンが多様化した現在の
大学入試センター試験では、対象教科以外のテストを用いて学力差を推定せざる
を得ず(例えば、物理受験者群の数学や外国語の得点は生物受験者群のそれより
も高いとか低いとかいう情報を利用する)、対象教科の学力差を直接測る決定的
な方法は無い、ということでしょう。


 以上のことをまとめると、
1.得点調整は選択科目のテストの平均点にある程度の差が出た場合にのみ行
う。
2.得点調整によって素点を下げない。
3.全ての対象科目のテスト得点を調整する。
4.平均点差を全ては詰めない。
5.100 点満点の枠を越えないこと、(0 点は 0 点のまま、満点は満点のま
ま。)
6.集団の学力差の問題はとりあえずペンディング。
ということです。
分位点差縮小法はこれらの要請を一応満たすものであると考えられます。



 最後に、「どうして偏差値にしないの?」という疑問をお持ちの方も多いと思
いますが、偏差値化、もしくは標準化は現行の入試制度の大幅な改革であり、素
点絶対主義からの脱却がまず必要であると思われます。その点の関しまして、み
なさまのご協力をいただければと思っております。

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Shin-ichi Mayekawa                                      前川眞一        
 Research Division,                                     大学入試センター
 The National Center for University Entrance Examinations 研究開発部    
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