[fpr 902] 科目間平均点差問題

岡本安晴

 
  岡本@金沢大学です。
 
  いつも、学生の授業の点数をまとめるときに悩んでいることと関係しますので
質問します。
 
 
鎌田さん@ミシガン州立大学大学院[fpr 898]より:
 
>偏差値が世間で悪者扱いされるのは、あくまで学校のランク付けを偏差値でやってし
>まうからだけで、それ以外には悪いことはないと思います。
 
  入試の合否判定の場合、複数の科目の点数から総合得点を算出します。偏差値を
もとに総合得点を算出するときは、それらの(重み付き)和を求めることになります。
その和が理論的に意味をもつためには、重みを付けられたときの点数が、interval
scaleである必要があります。和の算出に使われる科目が選択される場合は、
重み付きの点数の原点が同じでなければなりません。
 
  地理の50点と国語の50点は、それぞれの科目の分布における位置が同じ
という以上にどのような意味で同じなのでしょうか。
  45点と55点の差と、70点と80点の差が同じものを表わすというとき、分布上の
位置の変化以上のどのような意味において同じである、あるいは比較可能なの
でしょうか。
 
  試験で測られているはずのものが正規分布しているはずである、ということは、
どのようにして確かめられたのでしょうか。
 
  偏差値が理論的(?)に問題ないということは、すべての科目において
測定の対象となっているものが正規分布に従い、それらの平均と分散も
等しいということですが、これを保証するデータはどのようなものなのでしょうか。
 
  上のことは、データに基づいて確認されなければならないことですが、単に
統計学的に分布が等しくその分布は正規分布であるという偏差値では、上の
尺度のscale typeとそれに関連する問題は明らかではありません。
 
  偏差値を用いれば理論的に問題はない、という考え方は、実験心理学を
専攻している私としては疑問です。
 
  私は、現在の仕事の分野の1つとしてpsychophysicsをやっております
(e.g.,岡本,心理学評論,1975,Vol.18)。psychophysicsの場合、採用されている
分布は正規分布とは限りません。中心極限定理などを考慮して、実際には
正規分布が用いられるということはよくありますが。
  また、scale typeを扱う分野としてpsychophysicsにおいてもmeasurement
theoryが理論的に重要なものとなっています。measurement theoryにおける
scaleあるいはrepresentationは、データと同じ(isomorphic)構造のものを
数学的構造物(普通は実数)に求める(e.g., Narens, 1985, Abstract
measurement theory)ということですが、scale typeの問題は、これら同じ
ものを表わす(represent)方法の間の関係を扱うものです。
  すなわち、measurement theoryでのscale typeは、与えられたデータの構造と
同じ構造をもつ数学的構造物との関係を問題にしているもので、データから
その心理学的な構成概念に対する情報を読み取ろうとする実験心理学的な
分析におけるものとは必ずしも同じではありません。実験心理学における
理論あるいはモデルは、特定のデータのもつ構造と(isomorphismで対応付け
られているという意味で)同じ構造のものというよりは、そのデータのもつ
構造を含むものと考えることができます。与えられたデータをrepresent
するもの/データと同じものというよりは、そのデータをgenerateしたものと
いうことができます。
 
 
 
                                               岡本安晴
                                               C00279 (at) simail.ne.jp
 
                                               

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