[fpr 905] 科目間平均点差問題

南風原朝和

南風原@東大教育心理です。

岡本さん@金沢大学が以下のように書いています。[fpr 902]

>  入試の合否判定の場合、複数の科目の点数から総合得点を算出します。
>偏差値をもとに総合得点を算出するときは、それらの(重み付き)和を
>求めることになります。その和が理論的に意味をもつためには、重みを
>付けられたときの点数が、interval scaleである必要があります。
>
>  地理の50点と国語の50点は、それぞれの科目の分布における位置
>が同じという以上にどのような意味で同じなのでしょうか。
>  45点と55点の差と、70点と80点の差が同じものを表わすというとき、
>分布上の位置の変化以上のどのような意味において同じである、あるい
>は比較可能なのでしょうか。
> 
>  試験で測られているはずのものが正規分布しているはずである、とい
>うことは、どのようにして確かめられたのでしょうか。

科目の成績を,正規化された偏差値Tで表して,総合得点に組み込むこ
とを正当化するのは,それが間隔尺度であることではなく(実際,間隔
尺度であるとは言えないでしょう),やはりある種の理念や価値判断だ
と思います。

たとえば,数学または英語のうち1つを選択,という入試方法をとると
き,「数学が得意な学生も英語が得意な学生もどちらも欲しいし,その
両者が混在するのが最も望ましい。もし受験生の20%を合格にすると
したら,数学受験者・英語受験者のそれぞれの集団から上位20%ずつ
取りたい」という考え方があるとします。この場合は,それぞれの集団
ごとに順位付けをして合格者を決めれば良いのですが,科目ごとに正規
偏差値化すれば,両集団をプールしても同じ結果が得られます。

ここで仮に両集団をプールし,素点で合否決定をするとしたら,合格者
はほとんど数学受験者だけ,あるいは英語受験者だけ,という偏りを生
じる可能性があります。(実際,そういう事例がありました。)

もっと多くの科目群から複数科目を選択させる場合は,何らかの形で総
合得点を求めることになりますが,その際,科目選択制の理念として,
上記のような考え方があるとしたら,科目ごとの偏差値を求めて,それ
を合計するというのが,1つの方法でしょう。こうすることによって,
各科目の実質的な重みも(標準偏差が一定という限られた意味でですが)
そろえることができます。この方式,大学によっては既に何年も適用し
て定着してきているようです。

尺度の水準に関する理論的な問題点は岡本さんのおっしゃる通りだと思
います。変換して分布をそろえるとしても,なぜそれが正規分布でなく
てはならないのかという疑問に対して満足できる答えはないでしょう。
また,たとえば10点の差が尺度のどこでも同じ意味をもつという保証
もありません。心理学の研究で用いられる尺度もそういうものが多いと
思いますが,それらを合計したり,ピアソンの相関を求めたり,交互作
用の有無を問題にしたり,ということをしています。その測定理論的な
根拠は薄弱で,たかだか近似的でしかない間隔尺度性に頼って分析を進
めていることを認識する必要はあると思います。

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南風原朝和
東京大学 大学院教育学研究科
TEL:03-5802-3350 FAX:03-3813-8807

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