岡本@金沢大学です。 南風原さん@東大教育心理[fpr 910]より: >日心のRTDについては,金沢大学の岡本安晴さんに,「心理学研究 >における尺度の問題を考える」(仮題)というテーマで,話題提供し 南風原さんからお誘いを受けました。 議論のよいスタート台になるような話題提供になればと思っています。 長谷川さん@岡山[fpr 911]より: >この場合の「尺度」というのは、社会心理学の研究いう「○○尺度」ではな >くて、名義尺度とか順序尺度とかの「尺度」ですよね。 はい、外向性/内向性を測定する尺度とか、ある尺度が何を測っているのか という尺度の実質的な内容の問題ではなく、尺度(数値)の情報の質 (scale type) の問題をとりあげると聞いております。 受験生の受験番号は、ある条件の下では一人一人の受験生を区別するだけの 情報でしかないが、偏差値はその受験生の分布上の相対的な位置を表わし、 その尺度上での順序に関する情報を示します。 >あまり考えずに使っている「対数変換」とか「開平変換」などについても >お話いただければ幸いです。 この問題は、私にとって、院生時代に共同研究室でワイワイと議論していた頃を 思い出させてくれるものです。 この変換の問題は、分散分析の教科書ではscale typeの問題としてよりも、 データの分布が分散分析で前提とされている分布に近づくようにという観点から 説明されています。したがって、数値の順序関係だけが保存されていることに なります。 反応時間の分析のときは、逆数変換がよい。なぜなら、時間の逆数は速度だから。 という考え方があります。このときは、数値の表わす意味内容が考慮されていると いうことになります。心理学のデータとして速度がどのようなscale typeのもので あるのか、物理量を表わす速度と心理学のデータとしてのある反応の測定値という 心理学的なものに対応する速度が同じ質の尺度であるのかどうかは分かりません。 心理学の場合、順序尺度のレベルの情報でしかないという可能性があります。 交互作用との関連で変換が論じられることもあります。 各条件でのデータの平均値が次の2つの場合について考えます。 表1 平方根をとると交互作用が消える場合 ーーーーーーーーーーーーーーー 条件1 条件2 ーーーーーーーーーーーーーーー 条件A 1 4 条件B 9 16 ーーーーーーーーーーーーーーー 表2 交差している場合 ーーーーーーーーーーーーーーーーー 条件1 条件2 ーーーーーーーーーーーーーーーーー 条件A 1 5 条件B 5 1 ーーーーーーーーーーーーーーーーー 表1の場合は平方根をとると交互作用は消えます。変換によって交互作用が 消える場合は、その交互作用は特定の尺度によって見られるもので用いた尺度 によって生じたartifactであるとする考え方があります。交互作用のない方を artifactとする逆の場合も考えられますが。 表2の場合は、変換によって交互作用が消えるということがないので、この 場合にはartifactではない交互作用が認められるということになります。 尺度の問題をその変換の問題として考えると、measurement theoryの枠内だけで 考えることはできなくなりそうです。 岡本安晴@金沢大学文学部心理学 C00279 (at) simail.ne.jp
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