岡本@金沢大学です。 [fpr 922]の: > ただ南風原さんの例は「課題遂行時間」であって,私が念頭に置いていた >Donders的な「反応時間」とはちょっと違いますよね.南風原さんの例はそも >そもの [fpr 921]での南風原さんの例の引用は、データの差の大きさと統計的分析に おける有意差の出やすさが異なることに注意して頂くために用いたものです。 もともとの南風原さんの意図がどうであったかを問題にしたわけではありません。 [fpr 922]より: >> 研究の目的に合わせてモデルの設定とデータの収集を行う、という方が >> 単純に分散分析で済ませるより望ましいですね。 > > まあ要はこういうことなんですけどね. > 分散分析はやはり幾つかの要因を操作するような実験の分析に便利なんで, >なるべく使いたいと. なぜ、そんなに分散分析にこだわるのでしょうね。「まあ要はこういうこと なんですけどね.」ということなら、ご意見通り、そのようになさるべきでは ないですか。 [fpr 920]の例: > でもってF1とF2の二水準の一要因実験ではそれぞれの反応時間は以下のよう >になります. > >RT_{F1}=F1+C >RT_{F2}=F2+C に対して、反応時間のよく使われるモデル構成に従って次のような簡単なモデルを 設定してみます。 RT1 = P1 + Res RT2 = P2 + Res ここで、RT1およびRT2は条件1および2での反応時間を表わす確率変数です。P1 およびP2はF1およびF2を確率変数で表わしたものです。ResはCに対応する確率変数 です。条件差はP1とP2の分布の差として表わされ、Resの分布は両条件で共通です。 一般に、RT1あるいはRT2は正規分布ではないので、理論的には分散分析を適用する ことには無理があります。しかし、上のように確率変数でモデル構成しておくと、 最尤法などでP1、P2、Resの分布のパラメータ値を求めることが出来ます。条件差は P1とP2の分布のパラメータの差の検定として調べることが出来ます。 上のようにやれば、「分散分析はやはり幾つかの要因を操作するような実験の 分析に便利なんで,なるべく使いたいと.」という幾つかの要因を操作するような 実験の分析が分散分析でなければならないという積極的な理由がなくなります。 一昔前までは、モデル設定をしても、そのままデータに適用してパラメータ値を 求めるということはどのモデルでも簡単に出来るということではありませんでした。 分散分析が使えるように工夫する必要もあったでしょう。しかし、現在のパソコンの 性能ならたいていのモデルでのパラメータ値の算出が可能で、大きな計算は 汎用機かワークステーションで行わなければならなかった数年前とは状況が大きく 変わりました。数年前の論文における計算のコストの感覚には、今の高性能・低価格 のパソコンの時代には合わないものがあります。 なお、上のモデルでは確率変数を用いていますので、そのまま差をとっても Resの項は消えません。 すなわち、条件1のi番目のデータを RT1(i) = P1(i) + Res(i) で、条件2のj番目のデータを RT2(j) = P2(j) + Res(j) で表わしたとき、 RT1(i) - RT2(j) = P1(i) - P2(j) + Res(i) - Res(j) で、 Res(i) - Res(j) <> 0.0 です。記号<>は、必ずしも等しくないことを表わします。 [fpr 922]より: >そういうことで変数変換も分散分析(に限らず適切な分 >析法方)にかけることに意味があるような形で,という視点も考慮に入れるべ >きなんでしょうね. だれも無意味な分析をしようとは思わないわけで、この場合どのような「意味」 での視点かということが問題です。 反応時間 RT = F + C において、F から算出される速度 1/F、C から算出される 速度 1/C があり、1/RT は全体の平均速度です。これは速度の定義と理解されるべき もので平均速度はいわばグローバル/マクロな指標です。これを F と C で表わ されるよりローカル/ミクロな過程で説明しようとすることは心理学の理論上どの レベルで現象を表わし理解しようとしているのかということで、理解する側の選択 の問題です。研究対象としている理論の内容/現象のレベルによって適切なものが 選ばれます。 分散分析を統計の問題としての範囲で考えるのなら、例えば、分散を揃えるため、 あるいは正規分布の過程を満たすため、という統計学的な意味から変数変換を 考えることになるわけで、これは統計学的な意味を問題にしていることになります。 速度の心理学的な意味も考えてということなら、速度という尺度の水準も考えて 分散分析を行う必要があります(参照:[fpr 919] 南風原のパラドックス)。これは 反応時間を分散分析にかける場合も同じです。心理学的な意味を考えて分析するとき にはそれらの尺度水準を無視すると危険だというのが南風原さんのパラドックスの 意味です。もちろん、この場合の尺度水準は心理学的な意味において考えられるべき ものであって、物理的な意味においてではありません。 岡本安晴@金沢大学文学部 C00279 (at) simail.ne.jp
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