[fpr 986] ドライバーの反応時間の分析・検定手法について教えてください

豊田秀樹

豊田@立教大学です

Kazuhiro TANJI <tanji (at) sapporo.jwa.go.jp> さんは書きました:
>さて、私どもは気象現象(吹雪、路面凍結・・・)による自動車
>運転者の挙動特性について調査研究を行っているところでありま
>す。すなわち、気象条件を背景としたドライバーのヒューマンフ
>ァクターを分析することによって、道路上の防雪対策の基礎資料
>とするものです。
>この調査に先立ち、基礎的なドライバーの運転特性を把握するこ
>とを目的として、冬期道路上のドライバーの反応時間(外部信号
>からブレーキペダルに足を乗せるまでの時間)を様々な被験者・
>状況下で観測したところであります。
>このデータにもとづき、「条件A」「条件B」の被験者の相違を
>統計学的手法によって、有意差の検定を行おうとしていますが、
>分布形はどうやら正規分布と言えそうになく、その検定手法に頭
>を悩ませている次第であり、いくつか質問させていただきます。

この質問はfprの「今年の課題」に直接関係する問題ですね.
オリジナルの質問に直接答える形式ではなくて,少し議論を広
げるような雑感を書きます.

反応時間の分布が正規分布でない場合とは(小生が出会った範囲
では)正に歪んでいる場合がほとんです.実験中に夕食のおかず
のことが頭をかすめてブレーキを踏むのがかなり遅くなった人の
データがはいっていることが理由かも知れません.このような場
合は分布の要約統計量としての算術平均が実態を(実質科学的な
意味を)反映しなくなります.分散分析の数理的な正規分布の仮
定云々以前に,実質科学的な意味が希薄になった算術平均の差の
分析をすること自体の意義がなくなってしまうのだと思います.

一方,逆数を計算し,「反応の鋭敏度」という新しい変数を構成
すると小数の外れ値の影響はあまりうけなくなるので,「反応の
鋭敏度」の算術平均は分布の代表値としてリアリティを持ち,差
を分析することに実質科学的な意味が生じる可能性が高くなりま
す.

従って,「逆数変換して「反応時間」の平均の差を分析する」の
ではなくて,「「反応の鋭敏度」の差を直接解釈する」という視
点で「考察」の章を書くことが大切だと思います.

あるいは,どうしても「反応時間」の尺度のリアリティで「考察」
の章がかきたければ,一般的には中央値の差を分析します(マン
ホイットニなどで).
この場合も「分布が正規分布でないから,数理モデルの仮定を逸
脱しない様に,しかたなく」という理由ではなくて,むしろ「中
央値の差の分析こそが,外れ値の生じ易い「反応時間」の分析に
とって本質的である」ことが理由であると思います.

卒論や修士論文で質問されると,以上のように答えるのですが
実験を専門となさっている方は,どのように思われますか?

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TOYODA Hideki Ph.D., Associate Professor,     Department of Sociology
TEL +81-3-39852323 FAX +81-3-3985-2833,   Rikkyo(St.Paul's)University
toyoda (at) rikkyo.ac.jp 3-34-1 Nishi-Ikebukuro Toshima-ku Tokyo 171 Japan
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