森 敏昭@広島大 です。 丹治さんの質問に対し、私は次のようなお答えをしました。 個人宛に答えてほしいとのことでしたのでそうしましたが(根が素直なもので)、ルール 違反だったようですね(松井さん、すみません)。 >お尋ねの件、私の専門である認知心理学の領域でも反応時間の分析をすることが多いの で >すが、その際には測定値に対数変換を施し、その変換値に対して分散分析やt検定を行 う >のが一般的な方法のようです。また、各被験者を同一条件で複数回測定した場合、中央 値 >をその被験者の測定値とし(被験者内の反応時間の分布も正規分布に従わないことが多 い >ため)、さらに、各条件の代表値としては通常の算術平均ではなく幾何平均を示すよう で >す。 以上は私の専門分野での「しきたり」であって、確たる理論的根拠があるわけではないの かもしれませんが、それなりに筋の通った対処法だと思うので、この種の質問をされたと きには、こう答えることにしています。 検定の前提条件の問題に関しては、領域によって「しきたり」がずいぶん違うようで、例 えば生理心理学の分野では繰り返しのある要因を含む分散分析の場合、スフェリシティ( 分散共分散の等質性)の前提に対して厳格で、自由度のイプシロン修正か多変量分散分析 をやらないと、まともな学会誌には受理されないのだそうです。 以下は、私の最近の感想です。 検定の前提条件の問題は、追試による「歴史的検定」という方法もあるのではないかと思 います。つまり、1回の実験の1回の検定だけで結論を下さずに、最終的な結論は追試実 験にゆだねることも可能ではないかということです。理論的に重要な実験ならば、必ず誰 かが追試をするでしょうし(コストのかかる大がかりな実験の場合には、その限りではあ りませんが)、頑健でゆりぎない現象ならば、追試実験でも確認されることでしょう。 例えば20年以上も前のことですが、記憶研究の領域で「意図的忘却」という現象が話題 になったことがありました。パラドキシカルな現象なので、多くの研究者が追試実験を行 いましたが、ほとんどがネガティブな結果だったので、今では誰も話題にしません(ちな みに私の追試実験でもネガティブな結果でした)。どうやらカルフォルニアの某大学だけ でしか確認できない現象だったようです。 ************************************************** 森 敏 昭 Toshiaki Mori 広島大学大学院 Graduate School of Learning 教育学研究科 and Curriculum Development 学習開発専攻 Hiroshima University Email:tosmori (at) ipc.hiroshima-u.ac.jp http://www.educ.hiroshima-u.ac.jp/~lcd/ TEL & Fax: 0824-24-6764 **************************************************
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