森 敏昭 さんが以下のように書いています: *** ここから *** 森 敏昭@広島大 です。 認知心理学で反応時間を指標にする場合には、それはたとえば「記憶の確かさ」という心 理量(元型尺度)を測定するための物理量(表面尺度)であって、時間そのものを問題に することは少ないと思います(これは性格特性をロールシャッハテストの反応潜時で測る ような場合と同じ理屈だと思います)。ですから、実験条件の違いによって心理量の平均 値に有意差があるかどうかを問題にするのであって、時間の平均値の差を問題にしている わけではありません。で、なぜ対数変換をするかといえば、心理量が正規分布に従うもの と仮定したときに、その表面尺度である反応時間の分布が正規分布に従わずにゆがむ(通 常は正の歪度を示すことが多い)ということは、心理量の尺度と表面尺度の関係が線形の 関係にない(言い換えれば、反応時間の分布は心理量の尺度としての単位の一定性が保証 されていない)とみなし、それを線形の関係に近づけるためだと思っていました。 私はこれまで、心理学における非線形変換の意味をこのように理解し、学生たちのもその ように教えてきたのですが、間違っていたのでしょうか? この際、どなたかご教示くだ さい。 *** ここまで *** 私は,尺度変換はp値を得るための便法にすぎないと考えています。仮に ある変換で母集団分布を正規化できるとしたら,その変換を施したデータ から得られるt統計量のp値は,t分布を用いて正確に計算できます。し かし,このp値は「正規化した場合の」という条件付きの値であり,もと の尺度に対応する母集団分布のもとでのt統計量の分布から得られるp値 とは一致しません。したがって,変換後の尺度では帰無仮説を棄却できる けど,変換前の尺度ではできない,という可能性があります。 ところで,有意性の検定は,差の大きさの実質的な評価を目指す立場とは 指向性が異なりますが,変数変換をしてから検定,というアプローチは特 にその違いが顕著なような感じがします。この一連の議論のきっかけにな った異なる条件下での運転手の反応時間の違いについては,サンプルサイ ズによって有意になったりならなかったりする検定より,反応時間という 具体的な変数に関して差の大きさを評価することのほうが大事だと思うの ですが・・・。 --- 南風原朝和 haebara (at) educhan.p.u-tokyo.ac.jp 〒113-0033 東京大学 大学院教育学研究科 TEL:03-5802-3350 FAX:03-3813-8807
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