[fpr 1002] 笠井論文のデータ解析の問題点

豊田秀樹

豊田@立教大学です


笠井孝久「小学生・中学生の「いじめ」認識」教育心理学研究,第46巻
第1号(1998) 

という最近公刊された論文について意見を述べます.この論文の概要は

「小中学生はどんな行為を「いじめ」と認識するのだろうか?この研究で
は、加害者と被害者の関係(仲よし・交渉なし・仲悪い)、加害者の人数
(単数・複数)、行為の背景(面白い・しかえし・ぼんやり)、行為の形
態(悪口・暴力・無視・嫌がらせ)を組み合わせて72通りの架空の行為場
面を作り、質問紙法によって、それぞれの行為が「いじめ」とみなされる
かどうかを小中学生に判定させた。その結果、「無視」は小学生では「い
じめ」と認識されにくいが、中学生では「いじめ」と考えられていること
などが明らかとなった。(KR,守さん編著
http://zenkoji.shinshu-u.ac.jp/mori/kr/kr0401.html
,より引用しました)

というものであり,とても実践的なテーマを扱った論文です.いつくか
データ解析上の疑問点(
http://zenkoji.shinshu-u.ac.jp/mori/kr/toyoda980526.html
を参照してください)
があるのですが,この論文の Table1 と Table2 には全体的に計算ミス
があります.たとえば1例を挙げると,「関係」という要因の「仲良し」
という水準の標準偏差は0.68です.この値を計算したセル別の標準偏差
を拾うと

0.98, 1.00, 1.04, 1.07, ..., 0.99, 1.04, 1.00

となります.0.68を下回るものが1つもありません(下の注参照).こ
のような矛盾が Table1 と Table2 にはたくさん登場しており,全体的
に計算ミスをしています.標準偏差の計算ミスは平均値の差の考察に強
く影響しますので「結果と考察」の章の記述・解釈がおおかた信頼でき
ない状態になっています.

実践的な知見を提供してる論文であるだけに,とても残念です.セルフ
コンテインドで明白で全体に渡ったミスなので,雑誌の信用の点からも,
 1度掲載された論文であっても当局は再提出を求めるべきであると思う
 のですが....

注------------------------------------------------------------
ある要因には水準がABCと3あり,水準内の3つの標準偏差を計算し,
(これをSA,SB,SCと呼び)次に水準を込みにして標準偏差を
計算し,(これをSTと呼び)STがSA,SB,SCのどれをも下
回っていたら元のデータを見る間でもなく,計算間違しているとわ
かります.
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TOYODA Hideki Ph.D., Associate Professor,     Department of Sociology
TEL +81-3-39852323 FAX +81-3-3985-2833,   Rikkyo(St.Paul's)University
toyoda (at) rikkyo.ac.jp 3-34-1 Nishi-Ikebukuro Toshima-ku Tokyo 171 Japan
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