岡本@金沢大学です。 外れ値を2SDなり3SDなりを基準として決める、また、分析あるいは 結果の解釈を反応時間そのもので行う、あるいは変換値で行う、 いずれにしても、これらは何らかの理論的枠組みのもとで意味をもつ ものですし、豊田さんらはそれらの枠組みを示しておられるわけです。 この理論とデータとの関係に関して面白い標題をもつ本があります。 村上陽一郎(1979)「新しい科学論」講談社の副題が 「事実」は理論をたおせるか となっています。この副題の答えは、この本に従えば、「否」という ことになります。 データは理論によって認識される という考え方です。 データというレベルでさえ社会的・文化的制約があるということに なりますが、この社会的制約ということに関連して、次のStevens (Psychological Bulletin, 1939, p.227)の文章をあげておきます。 1. Science, as we find it, is a set of empirical propositions agreed upon by members of society. This agreement may be always in a state of flux, but persistent disagreement leads eventually to rejec- tion. Bridgman does not agree to this social criterion of knowledge and it was against this notion that he aimed a part of his Princeton lecture(13). We must ask him, however, to produce the negative case. A physical law to which only Bridgman agreed would not be a part of physics--not, at least, until he won converts, and then there would agreement. 科学的な真理も社会的なものであるということをStevensは主張している ようです。 しかし、Stevensの考え方のなかには、「新しい科学論」(村上、1979)の 時代からすると古いものもあるようです。 上のStevens(1939)の243ページに 5. What we have called the 'truth' of an empirical proposition is something which can never be absolute. Repeated tests of an object-sentence can add to its probability but never clinch its cer- tainty. Induction,as Hume pointed out, is not a watertight method of proving anything empirical. とありますが、このデータによって理論の確かさが増大していく、データは 蓄積・増大していくという考え方は「新しい科学論」では批判されています。 Stevensの科学論にも、いまや時代遅れとなってしまった部分があるよう です。この事をふまえて、Stevensの枠組み内で考えられたScale Typeの 問題を見てみます。 Stevensは、科学理論を記述するものをSyntacticsとして論じています。 これは心理学においては数学ということと解釈して大略よさそうです。 彼の周囲での数理心理学者たちの活動をjustifyするものとしてSyntacticsと Semanticsの考え方を位置づけることができるのではと思います。 データとSyntacticsの関係を扱うSemanticsの問題の1つとして、 データとformal system (number system)の関係を扱う問題の中に、 Scale Typeの問題を位置づけることができます。このように解釈しますと、 Scale Typeの問題をmeasurement theoryで扱われているようにisomorphism間 の関係として考えた場合、限界があるように思います。 Measurement theoryでは、isomorphismは2つの抽象的なsystemの間の 同型を扱うものですが、実験データにおけるscale typeの問題を考える というときは、2つのsystemのうち1つをデータの構造を表わした (抽象化した)ものと解釈するわけですから、上のようにisomorphismの 問題をデータとformal system (number system)の関係の問題と考え、 scale typeの問題はこれらのisomorphismの間の関係を扱うものと考えて よいと思います。 一方、データは実験や観察によって得られます。データは何かについての 情報です。心理学におけるデータは、何かpsychological systemとでも いうようなものについての情報です。この情報は実験方法や観察方法に よって得られるものです。つまり、データとformal systemの関係において scale typeの問題を設定すると、scale typeの問題はpsychological systemと formal systemの問題を直接には扱っていないということになります。 Psychological systemとformal systemの間にexperimentという過程を 介して得られるdataがあり、dataとformal systemの関係を扱うscale typeの 問題はexperimentという要因を介してpsychological system、つまり、 心理学的問題に関わることができるということになります。 これに対して、Measurement theoryを離れた一般のモデルは、いわば psychological systemとformal system(コンピュータモデルなども 含めて考えます)の関係を表わしていると考えられます。構成された モデルを個々の実験に適用するときは、その実験事態に特化したものが 設定されて、予測が行われます。 上の解釈を図示すると次のようになります。 Psychological System * * * * * * Experiment * * * * Psychological * * Model *-------> Data * * * * Measurement Theory/ * * Isomorphism/ * * Scale Type * * * * Formal System 心理学としては、Scale Typeの問題は、Measurement Theoryの枠内 ではなく、上の図でのPsychological Modelでの問題として考えるべき ものだと思います。 尺度というとpsychophysicsでの感覚の尺度がありますが、この psychophysicsを扱った本で相対的な立場を強調しているものとして Norwich (1993) 'Information,sensation, and perception'があります。 後半の感覚や認識の相対性を論じたところは面白いのですが、sensation の理論(モデル)を扱っているpsychophysicsのところは、出発点の justificationが弱いと思いました。 岡本安晴 c00279 (at) simail.ne.jp
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