豊田@立教大学です Yasuhide Matsumoto <ymatsumo (at) flab.fujitsu.co.jp> さんは書きました: >松本@富士通研究所です。 >>> 長谷川@岡山です。 >>> >なお、先ほどの説明で、総和を求めた後、n-1で割る話もしたのですが、 >>> >そこでもなぜ n ではなく、n-1なのかということについて、自由度の話を >>> >したところ(講談社ブルーバックスの「推計学のすすめ」(p.69)を参考に >>> >しました)、いまいち理解してもらえませんでした。 >>> 記述統計のレベルで標準偏差を扱うのであればn-1で割る必要はありませんよね。 >>> 推定という観点から考える場合には、 >>> ・不偏性の概念をまず説明し、 >>> ・母平均の値が分かっていない時に標本分散から不偏推定量を求める場合には >>> n-1で割らなければならないということを数式で証明する。 >>> ・不偏分散の平方根をとっても標準偏差の不偏推定量にはならないが、 >>> 正規母集団においては、....... >>> というのがオーソドックスな教え方かと思います。 > 僕の持っている本が悪いのか、探し方が悪いのかも知れませんが「母平均の >値が分かっていない時に標本分散から不偏推定量を求める場合にはn-1で割ら >なければならないということを数式で証明する。」というのになかなかお目に >かかれません。 お久しぶりです.私もまったく同様の不満をもっていました.そこで 拙著,調査法講義,1998年,朝倉書店,p110からp112 に証明を書きました.参考にしていただければ幸いです. 中学2年生レベルの数学で証明できます.方針は,まず任意の有限母 集団において係数部が正確に (N-1)/N(n-1) となることを証明しま す(Nは母集団の大きさです).次に任意の無限母集団において N が 無限大になると(N-1)/N が 1 になることは明らかだから,係数部が 1/(n-1) なることを証明しています.高度な数学は全く使いませんし, 黒板で説明すると20分位のものですから,下手な「気の利いた説明」 するよりきちんと証明を教えたほうがいいと思います. >>> 森・吉田さんの「データ解析テクニカルブック」(北大路書房)50ページの >>> 説明ならばもう少し直感的な理解が得られるかもしれません。 著者がMLのメンバーにいるので,あえてはっきりいってしまいます が,ここの説明は学生に読ませないようにしています(森さん,すみ ません).不偏分散の不偏性という性質は(分散が定義できないなど というデータ解析ではお目にかからない特殊な分布を除いて)任意の 分布(有限母集団を含めて)で成り立つ非常に強力な性質だからです. しかし上記の説明ではp48からの流れで,読者は正規母集団を想定して 読んでしまいます.もったいない書き方なのです.森・吉田さんの本 に限らず,また不偏分散に限らず,心理統計の手法には正規母集団を 仮定しなくてもほとんど成り立つものがたくさんあるのに,正規分布 を仮定して,わざわざ窮屈なところで説明し,しかも証明は省略する, という形式の教科書が多すぎます. 45人のクラス(母集団の大きさN=45)でランダムに15人休んでいる状態 で(n=30)そのクラスの模試の偏差値のチラバリを調べる場合には,不 偏分散を使うべきです. 逆に正規母集団が仮定できて,手元に標本が300もあるような場 合には不偏分散ではなく,私は標本分散を使います.標本分散は母分散の 最尤推定量だから,他の理論との相性がいいからです.常に「正規分布 を仮定した推測統計では不偏分散のほうがいい」とは限りません.これ も神話の一ではないでしょうか. -- ---------------------------------------------------------------------- TOYODA Hideki Ph.D., Associate Professor, Department of Sociology TEL +81-3-39852323 FAX +81-3-3985-2833, Rikkyo(St.Paul's)University toyoda (at) rikkyo.ac.jp 3-34-1 Nishi-Ikebukuro Toshima-ku Tokyo 171 Japan ----------------------------------------------------------------------
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