[fpr 1114] 性格研究は何のため

神村栄一

神村@新潟大学です.

> 豊田@立教大学です
>
> 心理測定は,学力,態度(意見),性格,などの特性を扱います
> 学力の測定は,入試,入社試験で人の人生左右する大問題です.
> 態度(意見)の測定は,集団値が問題になることが多く,内閣支
> 持率,選挙予測,視聴率など,政治や経済や社会に影響を与えます.
>
> 残りは性格です.そこで性格の研究をなさっている方にお聞きし
> たいのですが性格の研究,測定は,どのような場面で役にたつの
> でしょうか?

いちおう,所属先では,人格心理が担当となっております.
何か,発言せねば,と思う一方,気は重いのですが,
以下のように考えをまとめました.
他の方のご意見をうかがいたいとも思います.



> 確かに役に立っていると思えるのは,たとえば
> 1.大学入学時の学生相談所がおこなうスクリーニング
> (数人で何千人を相手にするには,これしかない)

これについては,確かにいわゆる性格テストを持ちいることが多いようではあります
が,
実際には,「不適応傾向チェックリスト」として利用されており,
「性格を測定している」という意識は学生相談担当者の側には薄いのではないでしょ
うか.
後にも述べますが,多くの臨床家は,特定の性格が不適応などの問題を生む,
とは考えていないのです.

> 2.生徒・学生が自主的におこなう適性検査による自己理解
> (将来が開ける可能性が有る)

広く自己理解,自己啓発的な性格検査の利用はありますが,それは,
性格が正しく測定されたため,というよりは,
性格テストの実施を通じて,自己を客観的にながめる,
自己を冷静にうけとめる,自己洞察につなげる,という「きっかけづくり」の役割で
あり,
たとえば,街頭の占い師の方のような,おそらくは科学的なうらづけの薄い
対話によっても「自己をふりかえるきっかけになって」癒されることがあるのと,
実質的にはかわらないと感じています.
(多くの性格テストが,占い程度のものだ,と言っているわけではありません,
ただ,同じような効果で利用される状況もあるようだ,と言っているわけです)

> 3.特定の職業に向いているか否かの作業検査
> (電車の運転手には,やっぱり向いている人が成るべき)

これは,実質的には,最も予測よいではないかと
思います.手続きが性格心理学というよりは,
実験心理学的であるためでしょうか.ただし,
予測する人の機能の範囲は,当然ながら狭くなるようです.
(狭い範囲に焦点を絞ると,比較的予測のよいものができる,
という点は,当然と言えば当然ですが,大変重要な認識であると思います)

> などが挙げられます.他に重要なものには何があるでしょうか?
> 具体例がありましたら教えて下さい.

1)や2)に含まれているのでしょうが,
より専門的には,精神鑑定などもふくめての,
精神医学的診断,
あるいは,通常のカウンセリング,心理臨床活動でしょうか.
心療内科系では,比較的,多くの心理テストを課すことが多いようです.


>
> 大切ではありますが人間理解のため,とか,合コンで盛り上がる
> ための話の種に,とかを除いて,どのような場面で役に立つので
> しょう.性格尺度の研究は,「作りました」という論文は多いし,
> はっきりした作り方があるのですが,それを使ったことによる御
> 利益をあまり聞かないような気がします.

同意見です.「作りました」よりも,
その作った尺度によって,人間行動の何を予測できるようになったのか,
を大切にするのが本当の性格研究かとおもいます.


>
> また,big five をはじめとする,統一的尺度は,何のために作ら
> れているのでしょう?実用というより,純粋な興味なのでしょう
> か?統一すると何かよいことがあるのでしょうか

個人的には,記述と説明の原理を簡約するという,科学としてはもっともな
素朴かつ基本的な発想だと私は理解しておりますが.
big fiveに取り組んでいるかたのご意見をうかがいたく存じます.


>
> 最近,「社会的状況とパーソナリティー,北大路書房」という本
> を読み返して,性格の測定は学力や態度の測定に比べて世の中に
> 影響していないのかな?と思うように成ったのですが,性格の研
> 究なさっている方はどのように思われますか?
>


心理臨床実践と(性格の)基礎研究の解離を感じます.
私個人も,両方に携わっているのですが,
ある性格研究のテーマにこだわる頭と,
臨床を行う頭を整理しておかないと,
臨床が下手になるので,
なるべく切り替えるようにしているくらいです.

個人的には,心理臨床活動にはいくらか詳しいので,
その観点からしかお話しにくいのですが,
最近の心理臨床活動は,「クライエントの性格をとらえ,それを変える」という発想
から
かなり遠ざかっているようです.
「性格なんて,そう簡単に,変わりっこない」
「性格なんて,そう大きく考えなくても援助はできる」
「性格なんてものを相手にすると考えていると,援助にならない」
というのが,多くの精神科医や心理臨床実践家のホンネではないでしょうか.
ご存じのように,心理臨床の世界では,
より問題の解決に焦点をあて,
より短期間で,という志向が高まっているのです.

性格にこだわる臨床家の方も,
特定の性格傾向は,問題行動を説明するが,
それを正確に測定するためには,どんな心理テストも不完全であり,
(技術的に,というだけでなく,背景となる性格理論もいまだ不完全なため)
時間経過の軸を取り込んだ(つまり,時間をかけた)面接や行動観察によって,
ようやく,かすかに見えてくる,くらいに,
考えているはずです.

あるクライエントの心の機能のある部分と,
そのクライエントが不適応を起こしている生活領域のある機能が,
うまくマッチしていないために問題が発生しているのであり,
そこになんらかの形で,揺さぶりをかけ,
柔軟さを生じせしめ,
それによって,すこしづつ適応的な循環が生じるまで
おつきあいする,
とういうところが,多くの臨床実践家の
(ご存じのようにいろいろな立場の違いはあっても)
共通認識ではないでしょうか.
(臨床家は,いつも,抽象的な,メタファーでしか
ものを言わないので嫌いだ,という声も聞こえそうですが,..)

臨床実践では,
クライエントの心の状態・行動傾向のアセスメントは重視されますが,
性格という仮説構成体を想定した上での性格テストを用いたアセスメント,
を絶対的に信用している臨床家は,
一般に思われているよりも,ずっと少ないし,
ますます少なくなりつつあるようです.

では,カウンセラーになるために,性格心理学を勉強することは意味がないのか,
と言われれば,そんなことはなくて,
人の理解の仕方のさまざまなバリエーションを学び,
それに基づいて演習することは,きわめて有効なトレーニングであると考えます.
しかし,科学としての性格心理学がめざすものと,
心理臨床の実践における性格概念というものは,
なかなか,同じ土俵に乗せにくいようです.

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なんか,自分の性格研究がいっこうにすすまないことのいいわけを
つらつら書いているだけのような気がしてきました.
どなたかの,前向きなご意見を期待します.


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神村栄一,E. KAMIMURA
E-mail:kamimura (at) geb.ge.niigata-u.ac.jp
〒950-2181 新潟市五十嵐二の町8050 
新潟大学人文学部
電話&FAX 025-262-6332
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