[fpr 1177] Power, Effect Size, and S.E.M.

豊田秀樹

豊田@立教大学です

"Haebara, T." <haebara (at) educhan.p.u-tokyo.ac.jp> さんは書きました:
>南風原@東大教育心理です。
>> ですから推定尺度値の信頼区間の幅は
>> 4.27*2=8.53
>> です.いっぽう実習を済ませて帰ってきた学生の平均的な効力感の上昇は
>> 32.32-31.20=1.12
>> です.これは(ちょっと大袈裟に)たとえるならウィルスの研究をするのに
>> 虫眼鏡しか作れなかったということです.1くらいの差を見るのに,そもそも
>> 推定尺度値の信頼区間が8以上あるのでは,どうしようもない.
>
>ここでは,個人のスコアに関する議論と,集団平均に関する議論がごっちゃにな
>っているのではないでしょうか。たとえば実習後の値を使って,個人のスコアの
>測定の標準誤差(S.E.M.)を推定すると 5.30*(1-.85)^.5 = 2.05 となり,2度
>の測定が個人ごとに独立だとすると,個人の変化量の測定の標準誤差は 
>(2.05^2 * 2)^.5 = 2.90 となります。これに対し,実際の変化量の(集団におけ
>る)標準偏差は (5.62^2 + 5.30^2 - 2*.48*5.62*5.30)^.5 = 5.57 ですから,個
>人ごとには結構大きな変化を示した者がかなりいることが分かります。(このこ
>とは論文中の散布図からも分かります。)

学術誌に掲載された「尺度」ですから,私のような教育実習生を送り出す側
の読者が使ってみようと思うでしょう.そのとき,かわいい教え子に数値を
割り振るわけですから,せめて検査を受けた学生の尺度値がきちんと評価で
きることが大切です.眼の前の実習生が利用する場合には,この学生の推定
尺度値の信頼区間が(両側の幅を見込んでなお)十分に小さいことが大切
です.8.53は広いです.

一般的な(しかしかなり強い)傾向として,個人の推定尺度値がしっかりと
評価できるほどの尺度なら,集団的特性をしっかりと論じることができます.
学術的かつ実用的です.学術誌の目的にも合致します.使ってみようと思う
ひとが相当数予想される状況では,個人の推定尺度値がしっかりと評価でき
ることを確認してから公開することが必要です.公開者の責任です.

しかし逆は必ずしもなり立たなくて,個人の尺度値を確実に評価するほどの
精度はないけれども,たくさん被験者をあつめれば集団についての定性的な
知見を述べることはできる場合があります.でもその変数バッテリーを尺度
と呼んではいけないでしょう.それを尺度と呼んでしまうと,つかった個人
に申し訳ないし,状況論の人から「状況を越えて一貫した「個人の」行動を
説明しないではないか」という非常に説得力の有る批判を受けてしまいます.

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TOYODA Hideki Ph.D., Associate Professor,     Department of Sociology
TEL +81-3-39852323 FAX +81-3-3985-2833,   Rikkyo(St.Paul's)University
toyoda (at) rikkyo.ac.jp 3-34-1 Nishi-Ikebukuro Toshima-ku Tokyo 171 Japan
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