村石幸正@東大附属です。 豊田秀樹先生が、諸般の事情で現在fprに投稿できないとの事なの で、代理投稿いたします。 ------------------------------------------------------------ KR【『教心研』第46巻第4号掲載論文批評】(その2)で論じられた ●村石幸正・豊田秀樹論文:古典的テスト理論と遺伝因子分析モデルによる 標準学力検査の分析に対する批評のうち,特に誤差分散の説明割合が大きす ぎないかという指摘に関して解説いたします. 誤差分散の説明割合が大きすぎないか,という感想は,分析直後にまず村石 氏が発した疑問でした.続いて教育心理学研究の審査委員の方から同様の疑 問を発せられました,その度ごとに加筆をしてきたのですが,KRからも同 じ疑問を投げかけられてしまいました.これだけコンシステンシーが高いと, 他の読者もそう思う方が多いと,容易に想像できるので,このような場で説 明の機会が有ることは,大変有り難いことであり,御礼もうしあげます. 説明の前に,まず踏まえておいて頂きたいことは,当論文の遺伝因子分析の 誤差変数の説明割合は,その気になれば容易に小さくすることができる(で きた)ということです.当論文の遺伝因子分析では各教科に1因子の構造を 当てはめています.これは,相当,厳しいモデル構成です.豊田・村石論文 のように2因子に,あるいは3因子にと因子数をふやせば観測変数の共通性は 上昇し,逆に誤差変数の説明割合は減っていきます.敢えてそれをしなかっ たのは, 1.数理モデルとしてこれで良いであろう, 2.教育心理学的にも,このほうが良いであろう, という2つの判断があったからです.それを,これから順に説明いたします. 1.数理モデルとして: 小生は,日ごろから,「係数と割合の錯誤」と呼ぶべき誤解が,心理学関係 の学術誌にはあると感じておりました.その錯誤とは,係数は印象がいいけ れども説明割合は印象が悪い,というものです.今回の批評を読んで,守さ んにすらその錯誤があるとおもえたので,その存在を調べるべく,トバスキ ー的なアンケートを(守さんに私信で)お願いしました.質問は以下の3つ です(読者の方も下の解説を読む前に,回答して見て下さい). 質問1(知能、性格、学力などの)構成概念の性質を調べる際に、統計モデ ルの数理的な性能という観点から、誤差変数の説明率は何パーセントくらい 以下でないと、支障が生じると思いますか。 質問2教育心理学研究に登場する、きれいな単純構造の因子負荷行列中の因 子負荷で、「意味がある」と思えるのはいくつくらい以上からですか。「単 純構造の因子負荷行列」は「1因子構想の因子負荷行列」でも同じです 質問3教育心理学研究の多くの著者は、きれいな単純構造の因子負荷行列中 の因子負荷で、「意味がある」として解釈しているのはいくつくらい以上か らと思いますか。 質問1は,数理的な性質を問うていますから最低基準を問うているというこ とです.質問2・3は数理的最低基準に教育心理学的要請が加わりますから, それより当然厳しくなるべきです.守さんの回答は,順に,50%以下,0.5以 上,0.4以上,でした(公開の承諾をいただきました).この回答は,多くの 回答者のまさに平均的な回答であると小生は思います.ところが係数で0.5以 上有ればいいということは,誤差分散は75%以下であればよいということです. 厳しさの順番が逆です(判断が矛盾しています).逆転したのは錯誤の効果 のためです.また係数で0.4以上で雑誌で認められるなら,誤差分散は84%以 下であればよいということです(星をたくさん付けて0.2位の回帰係数を解釈 している場合は誤差分散の説明割合は96%です.錯誤の逆手利用です).質問 3の守さんの回答を尊重すると,Table3は,「語句理解」以外は通常の水準で す.私も同様に判断しました. 2.教育心理学的に: 私は自分の専門の関係から学力選抜テストの因子分析をすることが少なくない のですが,今回のデータはそれらと比較するなら誤差分散の割合が大きいほう でした.性格検査なみといってもいいと思います.理由は,今回のデータが信 頼性を重視する選抜テストではなく,標準学力テストだったからです.選抜テ ストは,公平性を保つために1因子性を高くするように作りますが,標準学力テ ストは指導要領に準拠した内容妥当性こそが大切で,等質性などという性質を 考慮する必要が無く作成されます.言い換えるならば定められた各領域から問 題がまんべんなく選ばれていることが大切です.このため心理的に異なった能 力を測定する項目が含まれているわけです.したがって1因子構造を当てはめ ると,(性格検査並みに)誤差分散の説明割合が大きくなる可能性が有ります. 因子は,所詮,実在しない構成概念ですから,1因子を選ぶか多因子を選ぶかは, どちらの立ち場のほうがより,役に立つ知見が得られるかという観点から決め られるべきです.村石さんの意見は,教育現場では教科学力という視点が強い ので,その立場から分解した知見のほうが役に立つというものでした.各教科 の背後に***因子と命名した「学術的」な複数の因子を用意して分解してみ せても,中学・高校の現場では役にたたないということです.教育現場では, だれそれはこの科目が得意(不得意)というイメージが,圧倒的に強いからで す.そこで本論文では,誤差変数の説明割合を下げるという数理的な要請の為 に2因子のモデルを提案することをやめました.「語句理解」は,以上の理由で, このままにしておこうと判断しました. 追伸:守さんには無視されていますが,この論文では(村石さんは意見が違うか もしれませんが,少なくとも私は), 1.双生児ばかりでなく,一般児も遺伝研究に有効な情報を提供してくれること 2.アルファ係数には強い仮定が入っていて,いつでも最適ではないこと を主張することが,本来の主たる目的でした. ------------------------------------------------------------ 以上です。 なお、上記文章中の > KR【『教心研』第46巻第4号掲載論文批評】(その2) とは、 http://zenkoji.shinshu-u.ac.jp/mori/kr/kr0408.html のことです。ご参考までに。 ----------------------------------------------- 村石幸正 muraishi (at) hs.p.u-tokyo.ac.jp 東京大学教育学部附属中・高等学校 理科(物理) 〒164-8654 東京都中野区南台1-15-1 TEL:3377-3411 FAX:3377-3415 -----------------------------------------------
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