守@KRです。(すみません、ちょっと長くなりました。) 村石幸正@東大附属を通じて、 「KR」での村石・豊田論文への批判への回答が 豊田さんから解説という形でなされました。 豊田さんの回答がこのfprに投稿されましたので、 返答もここにします。 (どちらも「KR」のWebページにも掲載します。) 「KR」第4巻8号では 村石・豊田論文の「分析結果はアヤシイ」 というコメントを書きました。 また、そうしたアヤシイ結果から 「理科の学力は約半分が遺伝によって説明される」 などという結論を安易に提示するのはマズイと批判しました。 1.まず、私の主張をくり返します。 「分析結果がアヤシイ」と判断した根拠は以下の2点です。 (1)「誤差」の割合が大きすぎる。 (2)「国語と社会」、「数学と理科」のように 経験的に関連が深いと考えられている教科間で分析結果が違いすぎる。 今回、説明がなされたのは(1)についてだけです。 (これについても以下に反論を書きます。) (2)についても説明がほしいところです。 ここで使われている数理モデルは基本的に要因の加算モデルだと思います。 もし一般に加算モデルの正しさを前提に考えるならば、 「国語と社会」でこうも大きな違いが見られることは大問題のはずです。 国語の学力は当然いくつかの要因の加算されたもののですし、 社会の学力もそう考えられます。 ところがこの研究での分析結果は 「国語では遺伝の影響力ゼロ」 「社会科では遺伝の影響力が3から4割」というものです。 この結果が正しいとすると、 「国語と社会科との学力を構成する要因にはほとんど重なりがない」 ということになるのではないでしょうか? これはどう考えてもおかしいと思います。 そこで、(1)とあわせて、私は 「この分析結果はアヤシイ」と結論したわけです。 豊田さん、この(2)についてもぜひ解説をお願いします。 2.次に豊田さんの解説に反論します。 > Subject: [fpr 1422] 誤差分散の説明割合 > ------------------------------------------------------------ > 1.数理モデルとしてこれで良いであろう, (中略) > 厳しさの順番が逆です(判断が矛盾しています).逆転したのは錯誤の効果 > のためです. 私は以下のように厳しさの順番を決めました。 (1)純粋な数理モデルで一番厳しい基準:50%(相関係数なら0.7) (2)教育心理学研究では、現実のいろいろな制約から基準をゆるめざるをえないので、 基準をゆるめて(1)の半分(係数なら0.5) (3)上記は、「守先生が「意味がある」と思えるのはいくつくらい以上からですか。」 と聞かれましたので、私なりの基準ですが、 現実の制約はかなり厳しいでしょうから、こうした分野で研究をしている人たちは さらにゆるい基準を採用しているようだと考え、係数で0.4と回答しました。 (質問文は「教育心理学研究の多くの著者は、きれいな単純構造の因子負荷行列中の 因子負荷で、 「意味がある」として解釈しているのはいくつくらい以上からと、守先生は思います か。」 というものでした。) ですから判断に矛盾はないつもりです。 ここでの豊田さんの説明は、 誤差が大きいと感じられるのは「錯誤の効果」のためで、 さらに > また係数で0.4以上で雑誌で認められるなら,誤差分散は84%以 > 下であればよいということです ということでした。 結局のところ 「他の因子分析研究でも誤差84%くらいで認められているのだから この研究での誤差は決して大きくない」 というのが豊田さんの反論の骨子だと思います。 しかし、この説明では「誤差が大きくても問題はない」 ということの積極的な根拠にはなりません。 因子分析の結果は研究ごとにまちまちなことが多く、 私はもともと「眉に唾をして」結果を見ています。 それでも、多くの因子分析研究は 「今まで明らかでなかった潜在する因子をあぶりだす」 という意味で意味があると考えています。 つまり「仮説の発見」「探索的」な効用です。 これに対し、村石・豊田論文には (私が勝手になのかもしれませんが) 「仮説の検証的」な期待をしていました。 だって、学力に遺伝と環境が関わっていることは因子分析をするまでもなく自明のこ とで、 むしろ知りたいのは、「その仮説の確からしさ」の方なのではないでしょうか? だから、もっと誤差の小さい分析結果を期待したのです。 3.ついでに「追伸」にも簡単に回答します。 > 追伸:守さんには無視されていますが,この論文では, > 1.双生児ばかりでなく,一般児も遺伝研究に有効な情報を提供してくれること > 2.アルファ係数には強い仮定が入っていて,いつでも最適ではないこと > を主張することが,本来の主たる目的でした. 「KR」のスペースではこの2点は不要と考えました。 1は前号の「豊田・村石論文」で高く評価しました。 2は重要な指摘だと思いましたが、この研究の主目的とは外れると判断しました。 こうした論文の一部としてではなく、 これそのものに焦点をあてた論文をぜひ書いていただきたいと思います。 ------------------------------------------------------------------- 守 一雄@380-8544信州大学教育学部学校教育講座(これだけで郵便が届きます。) kazmori (at) gipnc.shinshu-u.ac.jp 電話 026-238-4214(ダイヤルイン) 『DOHC』『KR』発行元 Fax 026-237-6131(直通) http://zenkoji.shinshu-u.ac.jp/mori/hp-j.html -------------------------------------------------------------------
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