[fpr 1433] 因子分析と両極性

堀啓造

堀@香川大学経済学部です。

e-mail で相談を受けましたが,fprも読んでいると言うことでこちらに答えます.

ポジティブ項目とネガティブ項目が別の因子になるという問題です.

この問題は,日本では多少ニュアンスが違うものの,河合隼雄氏の本(岩波講座・精神の科学2
中「人格論における対極性」)でも両面をもちうるものとして論じられているものであり,
桑原知子(1991). 人格の二面性について 風間書房
という博士論文にもなっているものです.
(論文はたくさんでている.例えば,桑原(森)知子 1983. 質問紙法による人格の二面性測
定の試み 心理学研究, 54, 182-188)

SD法の研究では,両極性・単極性として議論されていました.わたしは項目の意味を明確にす
るためにはSD法では両極であるほうがよいと考えています.

(1)感情の研究(形容詞,SD法など)
さて,感情のほうの研究で衝撃的だったのが,
Green,D. P., Goldman,S. L. & Salovey,P. (1993). Measurement error masks bipolarity in 
affect ratings. Journal of Personality and Social Psychology, 64, 1029-1041. 
測定誤差が相関を「希釈」するので,両極性がなくなる.潜在因子を仮定する検証的因子分析
をすれば両極性が出現するというものです.私はあまりに見事に両極性がでるので逆に検証的
因子分析のほうがartifact でないかと疑ったりしたものでした.

最近このことを見事に示した論文が,
Barren,L.F., and Russell,J.A.(1998). Independence and Bipolarity in the Structure of 
Current Affect. Journal of Personality and Social Psychology, 74, 967-989.
(インタネットの全文版ではRussell の名前が落ちている)
ここでも,測定誤差が相関を希釈していることを見事に示している.つまり,検証的因子分析
を行えば両極性がみごとにでるし,2次元性を示している.この論文では相関行列をきちんと
示しているので,追分析を行うこともできるでしょう.

つまり,感情の次元が両極でなく単極だというのは測定誤差によるものでそれを修正すれば両
極にきちんとなるというもの. 

のもとの論文が
(2)リッカート尺度(Rosenbergの自尊心尺度)
Marsh,H.W.(1996).Positive and Negative Global Self-Esteem: A Substantively Meaningful 
Distinction or Artifactors? Journal of Personality and Social Psychology,  70, 810 
-819.

これは,まさに尺度におけるnegative 項目とpositive 項目が独立因子としてでるというも
の.それが人工的なものであることを示している.手法は(1)と似ている.やはり因子分析をそ
のまま適用した場合,ポジティブ項目とネガティブ項目の相関が低くなり独立した因子となっ
てしまうというもの.データはネット上に公開されているので追テストをすることができる.

http://www.icpsr.umich.edu/IAED/nels.html
National Education Longitudinal Study of 1988 (NELS88)
の生徒のデータの ポジティブ項目(bys44a,bys44d,bys44e,bys44h),ネガティブ項目(bys44i, 
bys44j,bys44l)である.SASのプログラムとSPSSのプログラムが付いているので,それもダウン
ロードすればこれらの変数をそのまま指定できる.ただし,spss プログラムの場合,若干修正
が必要であった.(text 版は圧縮版よりもさらに修正が必要であった).
実際に変数の分散等の調整はせずにそのまま,斜交回転(promax)をすると,みごとに2次元で
あり,因子間の相関係数は-0.503であった.(ただし,listwise で除くケース数はもと論文の
方が多い.それはあとで,ほかの変数を使用しているためであろう).

追処理はしていないが,2因子斜交解を押しのけて,1因子モデルの一つのバリエーションが
もっともよいモデルとなった.もちろん検証的因子分析を使っている.ネガティブ項目の測定
誤差間の相関とポジティブ項目の2つの測定誤差間に相関があるモデル.

というわけで,やはり単極型のモデルは測定誤差によって生じたものということ.
では,尺度上ネガティブ項目をどう取り扱うか.Marsh の考えでは,合計の計算には使わない
で,きちんと答えているかのチェック項目にするという.経済学部の学生などもいい加減に答
えるのでそういう使い方の方がいいかもしれない.実際,NELS88のデータのポジティブ項目の
和とネガティブ項目の和を対比したとき,本来プラスマイナス逆になるはずなのに,両方とも
同じように答えている生徒がかなりいる.これを単に反応バイアスというだけでいいのかな?

この論文の追試と拡張版がSemnet で言及されていた論文
Tomas, J.M, Amparo, O. (1999).  Rosenberg's self-esteem scale:
Two factors or method effects.  Structural Equation Modeling, 6, 84-98.

スペイン語でポジティブ項目,ネガティブ項目それぞれ5になっている.ここでは
CTCM(correlated trait/correlated method)とCTCU(correlated trait/correlated 
uniqueness)モデル両方ともチェックしている.MarshはCTCUだけを使っている.こっちでも全
体因子でネガティブ項目間の因子(CTCM)もしくは誤差間の相関(CTCU)が必要.全体因子とポジ
ティブ項目だけの因子または誤差間の相関のモデルは却下.ポジティブ,ネガティブのそれぞ
れ方法因子または誤差を設定するのも採択.ということで,ネガティブ項目の測定因子または
測定誤差間相関の設定がキーになっていることがわかった.Marsh の論文をほぼ追認してい
る.

なお,希釈や方法因子に関しては
狩野裕(1998)タレントの好感度データの分析 in 豊田秀樹編 共分散康応分析[事例編] 北大
路書房  p9-21.
を参照してください.

ということで,両極性を否定する研究は測定誤差によるものである可能性がかなりある.それ
をチェックする方法は,探索的因子分析ではだめで検証的因子分析をしなければならない.で
しかも「SEM」(構造方程式モデリング=共分散構造分析)をかまさないといけない.

これらの研究は,探索的因子分析では不十分であり,SEMを使用することが必要であること
を示すものです.しかし,ここまで劇的でいいのかな?やりすぎていない?

もしかしたら,Psychological Methods, vol.3(no.4) にでている測定誤差の論文を読めば意見
が変わるかもしれないが,未読です. 

最近(1999年3月〜),SEMNET においてfactor analysis and bipolarityというタイトルで議論
が行われました.
http://bama.ua.edu/cgi-bin/wa?S2=semnet&D=0&H=0&O=T&T=1&q=factor+analysis+and+bipolar
ity&s=&f=&a=&b=

(途中にリターンが入っているのでリターンを削除して, www を検索してください.)

10ほど記事がひっかかるが途中の
015423 99/03/26 10:07  28 factor analysis and bipolarity
から始まります.ここにほかの論文もでています.

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堀 啓造(香川大学経済学部)e-mail:  hori (at) ec.kagawa-u.ac.jp
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