[fpr 1484] 作り方と使い方

岡本安晴


  岡本@金沢大学です。

  実験心理学(知覚)のデータの収集を、臨床心理学における臨床家的
立場?で行うことを目指しているらしい論文を読むことで今夏を過ごして
しまいそうだなと思っていると、次の案内が学内の情報処理教育関係者
宛てに回ってきました。

============  抜粋  ====================

  平成11年度 情報処理教育研究集会

目的:国公私立の大学・短期大学・高等専門学校において、情報処理教育 (情報
を
  専門とする学科の専門科目の授業を除く) を担当する教職員が、今日の情報
化
  社会の急速な進展に対応した情報処理教育の授業を実施するために必要な教
育
  の理念・内容・方法等について討議する。

主催: 文部省・東北大学
日程: 1999/11/12(金)〜11/13(土)
会場: 東北大学 川内キャンパス 〒980-8576 仙台市青葉区川内

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  会場が近くて、時間的余裕があれば、参加して勉強したいのですが、
時間も費用もない、という状況で残念です。

  統計学の授業についての「オンラインパネルディスカッション」(南風原さん

が紹介されています[fpr 1474])に、電話のかけ方を授業で扱って単位を出す
ことを想定すると、パソコンの単なる使い方の授業で単位を出すことがおかしい

ということが判るはずである,というような議論がありました。確かに、授業中

にIEであっちこっちの広告を見て時間を潰している学生を見ると、これが
今風の情報処理教育なのか?と憂鬱になります。

  車社会になったからといって、バイクや車の運転を教えて大学の授業の単位
を出そうという議論は聞きません。大学で単位の出せる授業というときには、
何か基準があるのでしょう。

  情報処理教育の場合、単にマウスによるWindows画面のクリック操作に
慣れるというだけではだめでしょう。ワープロが使えるようにというのも、
それなら昔、タイプライタの使い方が単位のでる授業として教えられて
いたかという疑問がでてきます。

  情報処理教育が大学での単位の出せる授業として考えられているという
ことの背景として以下のような事情があると思います。
  それが計算機を使用するものであるということ。計算機は以前は
数値計算のアルゴリズムを実行する為の道具であった、すなわち、計算機の
授業はプログラミングであり、数値計算、アルゴリズム、データ分析などの
授業内容と連携している、ということ。ゲームソフトの遊び方などは別の
レベルの話です。

  情報処理教育のことがきっかけでこのメールを書くことを考えましたが、
一番の動機はアプリケーションソフトとプログラミング言語の授業に関する
ことです。

  行動計量学の書評に

 前川眞一「SASによる多変量データの解析」、東京大学出版会、1997

がデータ分析の解説書として紹介されていましたので、購入しました。
題名が「SAS・・・」なので、SASによるプログラミング例の解説も
含まれていました。これらのプログラミング例を見て、これなら
Pascalなどの普通のプログラミング言語でのプログラミングでも
よいのでは、と思いました。もちろん、多変量解析などのプロ
グラミングは既成のものの利用が現実的です。しかし、それらの
標準出力の加工や入力用データセットの準備などの処理はプロ
グラミング言語で書くようにした方が融通がきくと思います。
何もかもアプリケーションソフトで済ましてしまおうというのは
危険な気がします。

  学内の情報処理関係の授業計画の会議で、工学部のある人が
「Fortranで行列の計算をいちいちプログラミングするのは
大変である。Mathematicaなどでやることを考えたい。」
と発言されました。
  Mathematicaを使ってよいというのなら、行列のライブラリを
使えばFortranでも問題ないではないか、と思いました。
  最初からMathematicaなどのアプリケーションソフトで授業を
行うのと、FortranやPascalなどのプログラミング言語で授業を
行うのとでは、学生の将来の可能性の範囲に大きな違いが出て
くると思います。数値計算やデータ分析のプログラムは教科書や
文献の説明にしたがってプログラミングしてみる、そのとき
逆行列や特異値分解などはライブラリを利用する、そういう
やり方の方が将来の研究の自由度に大きくプラスになると思います。

 私自身の経験では、SPSSやBMDなどを使うと決まりきった分析は
間に合いましたが、ちょっと自分流の分析を試みようとすると
行き詰まりを感じました。Pascalでプログラムを用意するように
切り替えてから自由度が飛躍的に大きくなりました。

  何もかも一からプログラミングというのではありません。
何もかも最初からアプリで済ませるということが問題だと
思っております。
  一からのプログラミングは大変である。しかし、自分で
プログラミングすることによる研究の自由度も確保したい。
この2つの相反する要求はサンプルプログラムの利用に
よって満たされます。ソースコードの公開されている
プログラムなら必要に応じて、あるいは興味に従って書き
加えたりすることができます。また、その経験の積み重ね
によってプログラミング技術が身に付きます。

  上のことは何も研究者育成を目的とする教育の場合に
限られている訳ではありません。私自身は、研究者育成
用の教育には関係しておりません。それでも、情報処理
教育はプログラミング言語によるプログラミングを無視
するべきではないと感じております。
  パソコンでのワープロやWWWブラウザの操作と、プロ
グラミングでは授業の内容が異なります。後者はプロ
グラムの作り方であり、前者は作られたプログラムの
使い方です。大学での情報処理教育は後者を目指すべき
であると思います。


  情報処理教育関係の案内が回ってきたので、この
メールをfprに投稿してみようと思いました。

  猛暑の時節に失礼致しました。


金沢大学文学部
岡本 安晴






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