[fpr 1744] 一対比較法による尺度構成

岡本安晴


 金沢大学の岡本です。


>・・・私は音楽データを扱って
>おりまして、同じ音楽で音色が変わると印象がどのように
>変わるか、正しくは求める印象にするにはどのように音色を
>変化させればいいかを知りたいのです。

 求める印象と音楽を同じ空間に表すとよいですね。空間内に
おける求める印象と音楽の布置から音色の変化の方向が求まる
ことが期待できます。

>そこで、一対比較法という手法を見つけ、刺激として
>10秒程度の音色データ(同じメロディ)をピアノ・バイオリン・
>などのように用意して、実験を行ったのですが、刺激として
>このようなものは適当なのでしょうか?

 計量心理学という分野では、このような文化的な対象物も
扱います。むしろ、このような対象の方が物理量で表現できない
故に主観的な関係を量的あるいは空間内の関係として表すことの
メリットが大きいのです。サーストンモデルも文化的な対象を
分析できるところに心理学モデルとしての特徴があります。


>(同じ楽器でも演奏の仕方によって変わってくる、というのは
>考慮しつつ今は目をつぶっています)

 目をつぶってはいけません。積極的に分析内容に含めます。


>・・・「分散についての仮定が適当に
>設定できない場合」というのは、分散について“等しい”という
>仮定をしなくてはならないところが、それができないという
>ことでしょうか。既に今の段階で分散についての仮定が(実験対象からは)
>かなり強引になっているのですが、普通にやっている場合は
>それでも構わないのでしょうか。それとも皆さん、ある程度
>分散が等しいと確信を持って仮定をされているのですか?

 私は、研究課題の1つとして、この等分散の仮定を置くことの妥当性を
問題としています。信号検出理論に基づいた分析では明らかにこの等分散は
原則として仮定できません。この等分散の問題の重要性は専門家において
あまり認識されていないようです。

 メールの内容に関連して、他の基本的な問題もいくつか指摘しておくべきだ
と思いました。

 一対比較のデータということでサーストン流のモデルでの分析を考えて
おられるようです。しかし、あなたの場合に関してはこれは不適当です。
 まず、音楽のような刺激は多次元のものと考えるべきなので、1次元の
ものを扱う標準のサーストンモデルを適用するべきではありません。
 また、「求める印象」が目的点として設定されいるので、これも
標準のサーストンモデルを適用するべきではありません。このタイプの
データは「求める印象」を理想点(ideal point)として設定する展開法か、
「求める印象」の方向を表すベクトルを設定するベクトルモデル(ベクトルが
1本のときは標準サーストンモデルになる)のようなものを用います。
 
 展開法、あるいはベクトルモデルは多次元尺度法の標準の考え方では
解が求まる保証はちょっとやってみないと判らないという状態でしょう。
より確実には数量化法や双対尺度法という考え方の方法がおすすめです。

 昨年の学会発表で数量化基準を用いた分析法の発表をしました。
そのとき、若い人から、次元を上げた場合、データとモデルの単調関係が
よくなるのですかという質問を受けました。よくなりませんとお答え
しましたが、数量化基準の場合は単調関係を目的関数としておりません。
目的関数の違いを無視して、単調関係しか視野にないというのは困った
人たちだと思いました。


金沢大学文学部
岡本安晴




スレッド表示 著者別表示 日付順表示 トップページ

ここは心理学研究の基礎メーリングリストに投稿された過去の記事を掲載しているページです。