[fpr 1753] 因子分析の単純構造(長文)

堀啓造

堀@香川大学経済学部です。

Thurstone(1947)の因子分析の単純構造は,因子パタン行列についていってますが,

(a)柳井・高根『新版多変量解析法』朝倉書店 1985 (新版第1刷)

p132-133 では
>サーストン(1947)は,得られた因子が,各変数に内在するとみられる潜在因子を反映
>するためには,得られた因子構造が単純構造(simple structure)と呼ばれる次の4つ
>の条件を満たすことが必要であると考えた。

とあり,(1)〜(4)の説明の中でも
>(2)因子構造行列A
というように因子構造行列と明確にいってます。いい本なのに惜しいですね。

(b)柳井・高木編『多変量解析ハンドブック』現代数学社 1986 初版第1刷
市川雅教さん担当因子分析 p204
>サーストンは回転後の因子負荷量行列や因子構造行列が持つべき望ましい性質を,単
>純構造 simple structure という言葉で表現した。

とあり,「因子構造行列」も含めています。なんでなんかな。

(c)芝祐順『因子分析法』(第2版) 東京大学出版会 1979 p93, 第1版(1972) p211
>単純構造とはどのような因子構造をさしているのか。サーストン[1947]は因子負荷行
>列について次のような条件をあげている。

ちょっと怪しい表現ながらも間違っていない。怪しいというのは「どのような因子構
造」というところ。きちんと因子パタンと因子構造を区別しているはずだから,このよ
うな言い方はしないはずなんだけど。

(d)芝祐順『行動科学における相関分析法』東京大学出版会 1967 (参照は 1971年第4
版)
(あれ版がアップしてますね。刷だと思っていた)
p132 バリマックス法の説明のなかで,

>1つの合成変量があって,それがある一群の変量とはとくに高い相関を示し,他の一
>群の変量とはとくに低い相関を示すとき,そして,中程度の相関係数を示す変量がな
>いとき,このような合成変量の構造を単純構造とよぶ。

直交回転だからどちらでもおなじだけど,この説明は誤解を生みますね。このあたりに
起源があるのでしょうか?

もう一つ不思議なのが
(a)でサーストンの基準を4つにしていること。Harman などは最初3つだったのが5つ
になったとしている。実際私のもっている Thurstone(1947,7刷 1965)でも5つであ
る。

4つをあげているのは,
(e)浅野長一郎『因子分析通論』共立出版(1972) p80 「簡素構造」と訳している。
http://www.sci.kagoshima-u.ac.jp/~ebsa/asano01/

(f)柳井・繁桝・前川・市川『因子分析』朝倉書店 1990 p96
前川真一さん担当

がある。表現も似ているので,なにか書いてあったのがあるのだろうか。

実際には,
(g)三好稔編『心理学と因子分析』誠信書房 1962 p119
>(1)回転後の因子行列の各行には,0の因子負荷量が少なくとも1つは含まれているこ
>と,
>
>(2)回転後の因子行列の各列には,0の因子負荷量がr個含まれていること,

>(3)回転後の因子行列から,2列ずつを対にしてとりだしたとき,一方の列では0であ
>るが,他方では0でない変数がr個含まれていること,

>(4)共通因子の数が4〜5個以上の場合には,2列ずつ対にした両列において,因子負
>荷量が0であるテストがかなり多く含まれていること。

>(5)2列ずつとりだした対の両列において,因子負荷量がかなり大きいテストは少数で
>あること

が原文に近い。p335 r は因子数
1) Each row of the oblique factor matrix V should have at least one zero.

2) For each column p of the factor matrix V there should be a distinct se of r 
linearly independent tests whose factor loadings vjp are zero.

3) For every pair of columns of V there should be several tests whose entries 
vjp vanish in one column but not in the other.

4) For every pair of columns of V, a large proportion of the tests should have 
zero entries in both columns. This applies to factor problems with four or 
five or more common factors.

5) For every pair of columns there should preferably be only a small number of 
tests with non-vanishing entries in both columns. 

4つとする説はどこからでてきたのであろうか? 芝(1972,79)では元は5つであるが
3つにまとめていることを明記している。

(a)から引用すると
(1),(2)略 1), 2)と対応する。ただし,(2)は「因子構造行列A」といっている。
>(3)Aの任意の列において,一方の列にのみ含まれ,他方の列には含まれないような若
>干の変数が存在する。
>(4)4個以上の共通因子が存在する場合,Aは任意の2列に関し,大半の変数を共有せ
>ず,ごく少数の変数のみを共有する。

「含まれ」「共有」という曖昧な言い方になるのはどうしてでしょう。これは(e)(f)と
も共通して使ってます。

以上2つの疑問です。
(1)単純構造になるのは「因子構造」としたのはなぜか? Thurstone に言及するなら,
そうはならないはず。

(2)単純構造の5基準ではなく,なぜ4基準(条件)なのか? どこかに文献があるの
だろうけど,それはどれなんだろうか。少なくとも Thurstone(1947) に言及するなら
それは間違いでしょう。

Thurstone, L.L.(1947). Multiple-factor analysis. The University of Chicago 
Press.
 

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