[fpr 1966] 発想の転換

岸本淳司

岸本@SASです。

因子スコアの合計ですが、第3の変数を考えれば解釈可能だと思います。

stok> (1) 体重と身長の2変数を主成分分析して「体格」と「体形」の2因子を得た.体重
stok>     と身長の和得点は,「体格」得点と正確に等しい(相関1).しかし「体格」と
stok>     それと無相関な「体形」の和得点との相関は1より小さく,たとえば0.7程度
stok>     でしかない.この時,無相関な「体格」と「体形」の和という新しい合成変量の
stok>     意味は何であると解釈できるか?.

「体格」が大きく「体形」が太っている人が好まれるという社会を想定します。
「あの人体格はいいけど体形はやせてるのよねえ」なんて究極の選択をしている
わけです。すると、ある人を基準として「体格良・体形不良」から「体格不良・
体形良」まで選好の程度が等しい人の集合が考えることができます。この無差別
曲線が直線だとして、それと直交する方向は、「体格」^2+「体形」^2=一定 と
して最も好まれる人を示しているといえます。さらに「体格」と「体形」の効果
が等しければ和の方向になります。

主成分分析した変数には入っていない第3の変数が基準であるということが
ポイントです。第1主成分は「体形」の効果を無視することになるので、この
社会での選好を表わすには不適切です。「体形」は太っていればいるほどいい
という世界を想定しているので、望ましい合成変量は「和」で、「差」にはな
りません。

stok> (4) 反復横跳・垂直跳・背筋力・握力・50m・走幅跳−−の6変数を主成分分析し
stok>    て「体力」と「敏−鈍」という2成分を得た.第1主成分と6変数合計点は正確
stok>    に相関1にはならないが,非常に高い相関係数を得るだろう.このとき,直交す
stok>    る2成分得点の和得点は,やはり総合指標とは0.7程度の相関しかない.この
stok>    直交2成分の和という合成変量の意味は何であると解釈できるだろうか・・・?.

ボクシングのような格闘技を想定します。「体力」が大きければパンチ一発の
ダメージは大きいし、また耐える力も大きくなります。「敏−鈍」が良好だと
手数は増えるしパンチの命中率・回避率も良くなります。ということは、総合
的な「戦闘力」を評価するためには、「体力」と「敏−鈍」の合成変量を考え
なればいけないことになります。第1主成分では体力だけを考慮しているので
不適切です。ここでも、主成分分析した変数以外の「戦闘力」という概念が登
場します。

さて、元のブランドの問題ですが、ここでは「商品の選好」という変数を暗に
考慮していると考えられます。日経リサーチの解析結果を買う顧客は、自社の
商品とライバル他社の商品との選好に関するブランド価値の差を知りたいのです。
自社のブランド力の方が劣っているなら、価格を少し安くすることで市場での
選好を均衡させることができるかもしれません。「実用性」が低いブランドを
「かっこよさ」で補償して競争力を保つことができるかもしれないわけです。
そういう補償が成り立つなら、因子スコアの合成得点(和)に意味がでる可能性
も示唆されるでしょう。

では、(規準化したとしても)そもそも次元が違う数値の和に意味があるか、と
いう問題ですが、ここでハマっちゃう人が多いようです。
たとえばミカンが4個とリンゴが2個あったとしましょう a=(4,2)。この状況を
表わすには、ミカン・リンゴの順に e1=(1,0)と e2=(0,1)という2つの基底を
用意して a = 4*e1 + 2*e2 と表現できます。ところが e3=(1,1), e4=(1,-1)と
いう基底を使っても a = 2*e3 + 1*e4 として同じ状況が表現できます。
ミカン・リンゴ1個ずつのセットを2組買って、さらにミカンとリンゴとを1個
交換すればいいというわけです。同じデータを表現するのに、基準となる測定
単位を変換したことになります。数学的には基底変換といわれるものです。

主成分分析というものは、ある意味で最適な基底変換を自動的に探索する方法
として理解すべきだと思います。因子スコアを合計するのも、新しい座標系で
データを見直すことだと考えれば、次元の違う数を足している違和感から脱する
ことができます。

とはいえ、ブランドの選好がことさら問題となるのは、商品内容はほぼ同等で
消費者はブランドだけを見て選んでいるという狭い状況だけです。たとえば写真
用ネガフィルムは素人にとってはどの商品でも実質的に差はありませんから、
ブランドで選択しているといえます。しかし、たとえばアイスクリームという
商品は空気含有量とか乳脂肪とかによって商品の性質がぜんぜん違うので、
ブランド名だけで選択していると考えれば、まじめに研究している真柳さんが
怒るでしょう。また、たとえブランド評価がダントツ一番であっても、Sonyの
アイスクリームというのは(少なくとも当分は)出てこないはずです。今回の
調査のように「日本最大規模のブランド評価調査」と称してさまざまな領域の
ブランドを一緒にしてランキングするというのは、そもそもどのような研究動
機に基づくのか疑問です。領域が広すぎて、選好比較の対象になりえないから
です。だから、因子スコアの和にも説明がつきにくいのです。因子構造だって
領域ごとに異なるかもしれません。

ま、年末によくある「今年のヒット商品ランキング」と同じようなものという
ことでしょうか?

ξ
■ゞ(^_^) Kishimoto     The opinions expressed here
SAS Institute Japan     are mine and not necessarily
jpnjak (at) jpn.sas.com      those of SAS Institute.


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