南風原@東大教育心理です。 MARUYAMA Takuro さんからの引用: > (1)一つ目はパス係数の解釈の問題ですが、 > 豊田(1998)『共分散構造分析−事例編』のp123にのっています > 例に関する質問です。 > たとえば「数学・理科」から「KL3」「KL4」に向かう係数の推定値が > 0.27、0.29のように低い値なのに対して > 「数学・理科」から「思考力」や「分析・表現力」のパスは > 0.89、0.79などと非常に高い値を示しています。 > > このような場合に潜在変数(構成概念)間の解釈を行うとき、 > 「数学・理科」が1単位上昇したら、「思考力」が0.89単位上昇する、など > と解釈してもよいのでしょうか? 上記の結果は,「数学・理科が得意,好き」ということを表す潜在変数と,「物 事を論理的に考察できる」等の自己評価を表す潜在変数との間に,高い相関があ るということを示すもので,納得のできるものだと思います。ただ,相関関係と いうことを超えて,「「数学・理科」が1単位上昇したら、「思考力」が0.89単 位上昇する」というような,個人内の共変関係や因果関係として解釈する根拠は あまりないと思います。(上記の本で私が担当した付録Dには,「数学学習時間」 と「物理学習時間」の間に正の相関関係があるにもかかわらず,実際には,数学 の学習時間を長くしたら,その分,物理など他の科目の学習時間は短くならざる を得ない,というように,集団としての相関関係と個人内の共変関係が逆になる 例を挙げています。) このことと関連するのですが,回帰係数の説明は,(私自身もそういう表現を 使ったことがあるのですが)「xの1単位の増加に伴うy^の増分」というよう な因果を匂わせる表現ではなく,「xの1単位の差異に対応するy^の差異」と いうような中立的な表現のほうが誤解がなくて良いのではないかと考えていま す。もちろん,「xの増加に伴うy^の増分」のような表現でも,それが回帰直 線の数学的説明として限定的に用いられるのなら問題はないのですが。 ご質問の内容からさらに離れてしまいますが,上記の表現を重回帰のときの偏回 帰係数に拡張すると,たとえば「x1の値を固定したときの,x2の1単位の差 異に対応するy^の差異」ということになるのですが,この中の「x1の値を固 定したとき」というのも問題があります(この表現も,私自身,使ったことがあ るのですが)。このことは,前にこのMLで話題になった「積の項」を含む重回 帰 y^=a+b1・x1+b2・x2+b3・x1x2 の場合,「x1とx2の値を固定したときの,x1x2の1単位の差異」という のが意味をもたないということからも分かります。ここはやはり,「x1x2か らx1およびx2の(線形的な)“影響”を除いた成分の1単位の差異に対応す るy^の差異」というような表現でないといけないでしょう。偏回帰係数やパス 係数を,このように,「他の説明変数の影響を除いた残差にかかる係数」として 解釈することは,「他の説明変数の値を固定したときの」として解釈するよりも 正確であるだけでなく,そうした残差がどういう内容の変数かを具体的に考える ことを通して,偏回帰係数,パス係数の解釈が深められるのではないかと考えて います。 ---- 南風原朝和 haebara (at) p.u-tokyo.ac.jp Tel/Fax:03-5841-3920 東京大学大学院教育学研究科 (〒113-0033 文京区本郷 7-3-1)
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