[fpr 2223] 「傾向差」は統計用語?

高橋知音

信州大学の高橋知音です。

直接質問のお答えになっているわけではありませんが、長谷川さんの投稿に関連して、
有意水準についてちょっと書いてみたいと思います。

(1) 有意水準とeffect  sizeについて

青木氏のホームページにあったという説明ですが、
実際のホームページを見ることができなかったので、もしかしたら何か別の意図があ
るかもしれませんが、引用された部分だけを見る限り、有意水準について誤解を生む
説明なのではないかと思います。

有意水準はデータ収集の前に決めるType I errorへの許容度であり、実験効果の大き
さや差の大きさを表すものではありません。例えばまったく同じ差であっても、個人
差やサンプルサイズによってpの値は変わってきます(繁桝・柳井・森 1999, p34)。

差の大きさや効果の量について言及するためにはeffect size, strength of
relationshipの指標を計算する必要がありますし、APAでは論文執筆の際にそういっ
た情報を入れるべきだと考えているようです(APAのpublication manual 第5版,
p25)。

(2) P =.10について

「有意傾向」という表現はよく耳にしますが、厳密にはデータ収集前に有意水準を設
定したら、それにもとづいて帰無仮説についてYes かNoの判断をするというのが本来
の統計的検定だと思います。事前に設定している有意水準としては5%が一般的なわ
けですが、盲目的に5%にこだわるというのも問題があると思います。
たとえば、新しい領域でまだ探索的にデータを検討しているような段階で、興味深い
現象を見逃さないために、あえて最初から有意水準を10%に設定するということがあっ
てもよいと思います。有意水準をゆるくするかわりに、次の研究段階でさらに条件を
洗練させて有意水準を厳しくしていけばよいのです。Huck (2000)の"Reading
statistics and research. 3rd ed." p.191にもType II errorの危険性がType I
errorの危険性よりも高ければ.10 や.15といった設定も考えられると述べられていま
す。

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高橋知音
信州大学教育学部

Tomone Takahashi
Shinshu University



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