[fpr 2401] 調査と実験

Tomoya MASAKI

村上先生、皆さん、

on 5/6/03 17:54, murakami (at) edu.toyama-u.ac.jp at murakami (at) edu.toyama-u.ac.jp
wrote:

> 教育現場ではランダム化までは難しいのが現実です。科学ですから
> 検証手続きがあれば可ではないでしょうか。

現場での実施可能性にも関わる問題ですから、安易に門外漢の
私が云々言えるところではありません。どのような方法であれ、
科学的に再現性をもって検証できる枠組みが保証されていれば
良いと思います。しかし、実際には皆が納得できる検証手続き
というものはあまりないように思われます。従って、結果的に、
やや手間はかかりますが、ランダム化による比較を行うことが
最も効率的に科学的な検証に通じるとの認識をもっています。

即ち、未知既知を問わず、何らかのバイアスの影響を相殺する
ためには、どうしてもランダム化と群比較のデザインによる
介入評価を行う枠組みを用いることが、重要と考えています
(ここが正に門外漢たるところですね)。

以前関わっていた新薬の臨床試験においても、倫理的な問題から、
ランダム化やプラセボ(偽薬)の使用に消極的な考え(時代)
もありました。

しかし、意図するしないに関わらずどうしても、効果判定に、
何らかのバイアスが入り込み、真の介入(治療)の効果を知る
ことが難しい状況(再現性が乏しい)が数多く経験されました。
多額の費用と人的負担をかけて臨床試験を行ったうえで、
なおかつ誰も(医師も患者もメーカーも行政も)真の介入効果
が判断できない状況も長年経験されました。このような反省の
もとに、これまでの消極的態度から、ここ十数年くらいで、
保健医療に関わる研究者らを中心として、積極的にエビデンス
を求める態度に変わったという経緯があります。

即ち、真の介入効果を知り適切な対応を行うという社会からの
要請に従って、臨床研究を取り巻く環境が必然的に進展した
ということのようです。

実際、保健医療の分野において、現在では、最終的な効果判定は、
Randomized (Controlled) Clinical Trial: RCT にて介入効果を
みることは、もはや必須の用件との認識になっていると思います。

さらに、その結果を系統的かつ批判的に吟味(システマティック
・レビュー)した結果を、必要とする人(医師、患者、行政)
に公開し、フィードバックする体制も整いつつあります。

この背景には、コクラン共同計画(1990〜)が大きく影響している
ことは間違いなさそうです。何れにせよ、保健医療の分野もここ
10数年で、国内の研究動向も含め、大きく変わったとの認識です。

特に、医薬品の製造承認申請を目的とした臨床試験(治験)に
おいては、医師、弁護士などの専門家をはじめとして、患者や
医薬品を開発するメーカーを交えた検討がなされてきました。
倫理面への配慮や何を指標としどう解析するか、さらに結果を
どのようにフィードバックするか、といった広範な議論がなされ、
治験実施体制等に関する基準(Good Clinical Practice: GCP)
も設けられ、国際的な調整もなされました。

因みに、治験においては、多施設共同の研究体制が一般的です。
教育現場において、単独施設では個人を対象としたランダム化は
難しいでしょうから、今後、行政などの協力も得て、多施設共同
の研究体制構築も必要となるように感じました。

> 現在、私の指導学生が児童の攻撃性尺度(基準関連的に作成したもの)
> を用いて介入研究(アサーショントレーニング)に入っています。

これは大変興味深い研究です。
是非、結果が出た時点でまたご教示ください。

前後比較を実施される場合も、ABA BAB などのクロスオーバー法
を用いて、ベースラインとの比較に加え、群間での比較ができる
デザインとすれば、有益な情報がより多く得られるかと思います。
やや手間はかかりますが、自然経過による経時的バイアスを考慮
したうえで、ある程度の群間比較は可能かと思います。

この辺りの話、釈迦に説法となり恐縮です。何れにせよ指標を決め、
意味ある(と考える)差(効果)を見いだすために必要となる
サンプルサイズを、想定する解析手法に対応して事前に求め、
その例数を元に検討し、かつ除外脱落が生じないよう制御し、
判断するという、実験計画法と適切なデータ・マネジメント
(研究の品質の維持)に依拠した研究こそが重要と思います。

保健医療分野においても、たまたま集められたサンプルに対し、
何らかの指標の変動をみて、一律 1% や 5% の危険率で検定し
一喜一憂!?しているような報告もまだ多くみられます。

仮説検定の論理枠組みと研究の位置づけ(探索的か確定的か)
が明確になっていないことがその背景にあるように感じます。

話が脱線してしまいました・・・

<以下、ご参考まで>

コクラン共同計画について

 http://www.so-net.ne.jp/medipro/LSP/yk/cochrane/

JANCOC ホームページ

 http://cochrane.umin.ac.jp/

キャンベル共同計画

 

国内でも、キャンベル共同計画が動き出したことを知り、
その成功に大きく期待しているひとりです。

今後とも宜しくお願い致します。

--
東京大学大学院 国際保健計画学(客員研究員)正木朋也
〒113-0033 東京都文京区本郷 7-3-1
TEL: 03-5841-3688 FAX: 03-5841-3637
email: masakit (at) m.u-tokyo.ac.jp


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