早稲田大学大学院の室橋と申します。 自分もまだまだ勉強中の身なのですが、 レスが全くつかないのも淋しいので、投稿させて頂きます。 間違えているところなどがありましたら、訂正をお願いします。 桐野さんの投稿のうち、まずは2値データの場合ですが、 2母数正規累積モデルでは困難度の高低と正答確率の高低とが 逆転する可能性がある、というのはご指摘の通りだと思います。 よって困難度の大小が完全な項目の難易度の 順序関係の表現になっていないのは確かなのですが、 それでも困難度母数はある程度の目安には なるのではないか、と考えています。 例えば困難度が0.0の項目と0.1の項目とでは、 正答確率の逆転が起こっても不思議ではありません。 しかし、困難度が0.0の項目と1.0の項目とでは、 よほど極端な識別力でもない限り、正答確率の逆転は起きないはずです。 これを踏まえて、項目同士の大まかな順序関係を 掴むというつもりで利用するならば、困難度母数は十分に 項目の難易度を表す指標として利用できるのではないかと思います。 実際にテストの分析を2母数モデルで行った例などを見てみても、 困難度順にソートされた項目は、 大体難易度の順に並んでいるようにみえます。 これに対して段階反応モデルの場合ですが、 項目内でのカテゴリ間の困難度の比較と、 項目間での困難度の比較との2種類の状況を想定されているようなので、 別々に考えてみたいと思います。 まず項目内での各カテゴリ間の困難度の比較ですが、 これを行うのは理論的にあまり意味がないように思えます。 というのも、段階反応モデルは 「カテゴリ間に順序関係が存在している」ことを そもそもの前提として構築されているモデルだからです。 よって、段階反応モデルをあてはめている時点で、 カテゴリ1はカテゴリ0よりも難しいに決まっていることになります。 カテゴリ間の困難度の順序関係を分析したい場合には、 名義反応モデルや多肢選択モデルを利用するほうが 適しているのではないでしょうか。 次に項目間での困難度母数の比較ですが、 これは複雑な問題になるような気がします。 桐野さんがメールで述べられている方法は、 項目間で識別力に等値制約をおいた、 ラッシュモデル的な段階反応モデルというようなものと理解したのですが、 段階反応モデルの場合、これだけでは カテゴリ特性曲線の形状を固定することはできないはずです。 何故なら、段階反応モデルの各カテゴリの曲線の形状には、 識別力母数の他に、隣のカテゴリの位置との兼ね合いも関係しているからです。 例えば3カテゴリの場合に、 a=1.0, b0=-1.0, b2=1.0 a=1.0, b0=-2.0, b2=2.0 という2つの項目があった場合に、これは両方ともb1=1.0です。 しかし実際にカテゴリ特性曲線を描いてみると、 2つの項目のカテゴリ1の曲線は明らかに違う形になります。 つまり、反応曲線の形状を固定して、 困難度母数の大小関係が、そのまま潜在尺度値の全域に渡る 正答率の大小関係と等しくなるような状態にしたいならば、 識別力だけではなく、閾値の間隔を等しく保つ必要があるはずです。 ただし、この制約はかなり厳しいですし、例えこれを行ったとしても、 比較が可能なのは同じカテゴリ同士だけではないかという気がします。 あるいは、中間のカテゴリ(4肢選択におけるカテゴリ1, 2)同士ならば、 特性曲線の基本的な形が同じなので比較できるかもしれません。 結局、段階反応モデルでは母数を一義的に解釈することが難しいので、 項目間での難易度の比較を行うならば、 カテゴリ反応曲線を重ねて描いてみるのが 単純かつ効果的な手段になるのではないかというのが、自分の結論です。 また、自分は利用したことがないので不確かな発言になってしまうのですが、 改良段階反応モデルでは項目ごとに1つのbしか推定しないので、 多肢選択形式である項目間での困難度の比較を行いたい場合には、 そちらを利用するのも1つの手段ではないかと思います。 改良段階反応モデルのアプローチは、上で述べた 「閾値の間隔を項目間で等しくする」というものに近かったはずです。 長々と書いた割には正面からの答えになっていなくて申し訳ないですが、 何らかの参考になれば幸いです。 *----------------------------------------------------* 室橋 弘人 (Hiroto Murohashi) 早稲田大学大学院 文学研究科 豊田研究室 博士1年 mail: muhito (at) suou.waseda.jp web: http://www.littera.waseda.ac.jp/faculty/tyosem/murohashi *----------------------------------------------------*
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