[fpr 2501] SEMによる項目反応理論について

Kojiro SHOJIMA

桐野さま,室橋さま,fprにご登録のみなさま.

大学入試センター・早大院の荘島です.

> 2母数正規累積モデルでは、
> 困難度に加えて、項目の識別力も異なることから(ICCが交差する可能性がある)、
> 困難度のみを比較しても、必ずしも階層関係を認めることができないのでは?
> と思います。

2母数モデルでは,θの(-∞,∞)という領域のどこかで「必ず」ICCが交差します.
ただし,実質科学的に問題となるθの領域は大きく見積もっても[-5,5]くらいでしょう
から(垂直的な等化をしていくと,問題とすべき領域がどんどん広がっていく可能性
がありますが),室橋さんがおっしゃったように,ICCが当該領域で交差しない項目
もたくさんあります.

それと,1母数と2母数モデルにおいては,位置母数(困難度母数)は,
「当該項目に50%の確率で正答するθの位置」
です.ですから,位置母数は,オーバーオールな項目の難しさというよりも,
正答/誤答がフィフティー・フィフティー・チャンスになる点という意味での
困難度を与えるものです.

ですから,その限りにおいては,位置母数のみで全体的な項目の
難易度を推論するのは間違う可能性があります.しかしながら,
位置母数(困難度母数)がオーバーオールな項目難易度の良い指標
であることは,室橋さんがおっしゃったように,その通りだと思います.

> 「X1」  -0.190、0.070、0.442
> 「X2」  -0.156、0.469、0.768
> (これは閾値の結果です)
>
> このとき、因子パタンが等しいため、困難度を推定しなくても、
> 閾値そのものが難易度に相当するように思えますが、困難度も推定しております。
>
> このような場合においては、推定された閾値あるいは困難度(カテゴリ数-1)を
> 項目間や項目内で比較することは可能でしょうか?
> 具体的には、推定された閾値や困難度を、
> 回答カテゴリ数だけの位置母数として変換しなければ、
> (4値であれば3つの閾値、困難度といったようにすれば・・・)
> 1母数正規累積モデルにおいてそれらを比較することはできるのでしょうか?
> それとも、もしできないのであれば、
> この他に対処する方法はあるのでしょうか?

段階反応モデル(GRM)の閾値は,ほぼ
「当該カテゴリ以上を選択した割合と,標準正規分布を[τ,∞]の
区間で積分した値が等しくなるような,そんなτ」です.

また,GRMのカテゴリ位置母数の解釈は,
「当該カテゴリ以上を選択する確率が50%となるθの値」
です.

ですから,スロープ母数(識別力)が等しくても等しくなくても
(1母数モデルであろうと2母数モデルであろうと)
上の定義からはみ出ない限りにおいては,どの項目間でも
項目内の閾値も位置母数も比較可能であろうと考えます.

また,桐野さんがおっしゃるように,K-1個だけ推定された
位置母数を,K個の位置母数に変換しても,同様に比較可能です.
そのとき,中間のカテゴリの位置母数の解釈は,2母数モデルのとき
「当該カテゴリを選択する最も大きな確率を与えるθの値」
ということになります.これも,この位置母数のもつ意味を外れない
限りにおいては,どの項目間,項目内の位置母数とも比較可能で
あろうと思われます.

「困難度」というのは日常用語としてもとても広い言葉です.ですから,
その言葉の広さにひきずられて,困難度母数(位置母数)の解釈
可能性を広げていくと,いろいろと混乱することになりそうですね.

長文乱文失礼いたしました.




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                荘島 宏二郎 Kojiro SHOJIMA
  独立行政法人 大学入試センター 研究開発部 助手
                      shojima (at) rd.dnc.ac.jp
  早稲田大学 文学研究科 豊田研究室(心理統計学)
                      kojiro (at) toki.waseda.jp
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