Tomoya MASAKI 様 > > 現在、私の指導学生が児童の攻撃性尺度(基準関連的に作成したもの) > > を用いて介入研究(アサーショントレーニング)に入っています。 > > これは大変興味深い研究です。 > 是非、結果が出た時点でまたご教示ください。 > 児童の(行為障害に近い)攻撃性を測定し、介入研究を行った研究です。基準関連的方法で攻撃性尺度を作成し、実験群と統制群を用いた研究計画で、アサーション・トレーニングによる攻撃性の適正化教育を試みました。しかし、攻撃性の高い児童には効果がありませんでした。本人の要約を少し修正してお届けします。 ----- 村上宣寛 (勤務先) 〒930-8555 富山市五福3190 富山大学教育学部学校心理学 TEL 076-445-6367 FAX 印字不能、修理予定なし。 E-mail: murakami (at) edu.toyama-u.ac.jp HomePage:http://psycho01.edu.toyama-u.ac.jp/ 福光 隆(2004) 富山大学修士論文予定の要約(仮) 指導: 村上宣寛 研究Iでは,学級運営上問題となる攻撃性を測定することができる尺度を,基準関連的方法によって作成した。 教師によって,攻撃性に関する4つの具体的な行動を示した質問項目のうち,2項目以上にノミネートされた児童を基準群,基準群の児童が属するクラスの児童を統制群とした。そして,両群の質問項目の回答をカイ自乗検定で分析し,有意な差があった13の質問項目で児童攻撃性尺度を作成した。児童に対する調査は,クラス単位で担任が実施した。 Table 2 児童攻撃性尺度の質問項目とカイ自乗値 **p<.01 *p<.05 (質問項目) (カイ自乗値) 1 いろいろなことをたくさん知っています。 15.36** 2 からかわれたら,たたいたりけったりするかもしれません。 10.49** 3 すぐにおこる方です。(すぐにむかつく方です。) 12.22** 4 クラスの中で大切な人です。 6.74** 5 友だちの考えにさんせいできないときは,はっきり言います。 8.47** 6 すぐにけんかをしてしまいます。 12.11** 7 思いやりのある方です。 4.11* 8 人にらんぼうなことをしたことがあります。 11.57** 9 ちょっとしたことではらがたちます。(むかつきます。) 11.27** 10 たたかれたらたたきかえします。 7.90* 11 おこると,くちぎたない言葉を言います。 9.05** 12 いやなことを言ったあい手には強く言いかえします。 6.18* 13 カッとするとなかなか気持ちをおちつけることができなくなります 4.51* 採点方向---攻撃性の高い児童で高得点となる はい : 1 2 3 5 6 8 9 10 11 12 13 いいえ: 4 7 被験者は8つの小学校の3年生412名(男子210名,女子202名),4年生405名(男子217名,女子188名),5年生460名(男子224名,女子236名),6年生424名(男子231名,女子193名),計1,701名(男子882名,女子819名)と担任59名であった。 児童攻撃性尺度の基準関連妥当性を検討するために,児童の尺度得点と教師によるノミネート回数の相関係数を算出した。すると,0.21という低い相関であった。また,α係数を算出すると,0.79という十分な値であった。 研究IIでは,尺度の基準関連妥当性と再検査信頼性を検討した。また,尺度の項目の識別力,困難度,偶然正答水準を項目反応理論の3パラメタ・ロジスティックモデルを使って,分析した。 尺度を作成した被験者群とは,別の被験者群を対象にして調査を行った。児童一人一人にノミネートの回数ではなく,具体的な攻撃行動に対する評定をし,その結果と尺度得点との相関係数を算出することとした。この手続きによって一人一人の児童に対して,学級運営上問題となる攻撃性についての評定がなされることになり,尺度得点とのより正確な妥当性係数が導かれると考えた。児童に対する調査は,1週間の間隔をおいてクラス単位で担任が実施した。教師に対する調査については,クラスの担任が,攻撃性に関する4つの質問項目について,一人一人の児童を5段階で評定した。 被験者は,小学校3年生59名(男子29名,女子30名),4年生50名(男子25名,女子25名),5年生61名(男子37名,女子24名),6年生54名(男子25名,女子29名)計224名と担任8名であった。 その結果,一人一人の児童の攻撃性尺度の得点と教師によって評定された攻撃性得点との相関係数は,4年生で,0.72という高い相関であった。3年生は,0.54,5年生は,0.36,6年生では,0.45と言う中程度の相関であった。全体でも,0.46の中程度の相関であった。8人の教師による評定点数と尺度得点との相関を高いものから並べてみると,0.78,0.64,0.58,0.52,0.47,0.44,0.43,0.25とかなり広範囲になった。0.25と有意でない相関のあった1クラスを除いて,7クラス(n=198)の尺度得点とそれぞれの担任教師による相関を再計算すると,0.49となった。 再検査法による信頼性を,1週間間隔で算出した。その結果,信頼性係数は,3年生で0.86,4年生で0.89,5年生で0.83と,十分に高い値であった。全体でも,0.85という高い値であった。 項目反応理論によって再分析を行った結果,識別力については,13項目の内,9項目が1.00以上の数値を示した。低いものでも,0.60以上となっており,児童攻撃性尺度の識別力は,問題ないと考えられた。 研究IIIでは,研究I,IIで作成した尺度を基に,「学級運営上問題となる攻撃性の適正化教育」に取り組んだ。 攻撃性の適正化教育のプログラムとしては,アサーション・トレーニングを攻撃性適正化教育の単一のプログラムとして選び,作成した尺度によって,その効果を探った。実験群は,児童攻撃性尺度による調査を4月中旬と攻撃性の適正化教育終了後の7月中旬の2回行った。統制群は,6月上旬と7月中旬に2回行った。実験群では,アサーション・トレーニングの考え方にのっとった,学級運営上問題となる攻撃性の適正化教育を担任が10時間行った。 被験者は,実験群が3年生1クラス38名(男子20名,女子18名),統制群が3年生1クラス38名(男子20名,女子18名)であった。 両群の児童攻撃性尺度得点の平均値が事前,事後で有意に変化したかどうかをみるためにt検定を行った結果,実験群においてのみ,事前,事後で有意差が見られた。そこで,実験群の介入教育の事前の攻撃性尺度得点のどの範囲の児童の平均値が有意な上昇を見せたのかを分析するために,研究Iでのデータ(平均値6.44,標準偏差3.19)を基に,尺度得点の高得点群(10点〜13点),中得点群(4点〜9点),低得点群(0点〜3点)の3群に分けた。実験群,統制群の事前,事後の攻撃性尺度得点の平均値の比較を3つの群ごとにt検定で分析した結果,実験群の低得点群のみが,有意な変化があったことがわかった。
ここは心理学研究の基礎メーリングリストに投稿された過去の記事を掲載しているページです。