[fpr 2637] 立秋と水垢離錯誤

豊田秀樹

残暑お見舞い申し上げます.by 豊田@早稲田

立秋である.一番暑い時期だから「暦の上では」などと枕を付けることも
あるけれど,私はそうは思わない.体が暑さになれた気温のピークのとき
だからこそ,風の気配や虫の声に秋を感じるのだ.待望する気持ちが,そ
れらを増幅して味わせるのだ.逆説的ではあるけれど,情緒的に秋を最初
に感じるのは,やはり,暦どおり立秋のころに違いない.そう思って窓を
開けると秋の匂いがする.
サッカーのアジア杯決勝戦をTV観戦した.いや正確いうと半分くらい見
た.何故かというと,ここ1番の大勝負は,自分が見ると日本は負けるか
らだ.見ないほうがいいんじゃないかと思ったのだ.試合開始と同時に見
始めたのだが,このまま私が見ていると日本が負けそうなので,一旦テレ
ビを切る.ドキドキは止まらない.しばらくしてスイッチを入れると1−
0で日本がリードしている.「やった!」と小躍りし,安心して視聴を続
けていると,案の定中国に入れられて1−1の同点となってしまった.や
はり自分が見ていると日本は負けるのだと思う.追いつかれたのは自分の
せいだと思い,代表に済まない気がする.再びスイッチを切る.もういい
だろうと試合終了直前にスイッチを入れると3−1で日本が中国を下して
優勝を果たした.自分は見ないことによって日本代表に貢献したようにも
思い,すこし満足したが,これは心理統計的には全くの錯誤である.ギロ
ビッチ(守一雄先生訳)も読んでいるから,錯誤であることも知っている.
見たいテレビを見ないで我慢するエネルギーを代表選手に贈る(贈った気
になる)のは,冬に水をかぶって家族の病気回復の願いをかける水垢離(
みずごり)と同じ(がまんして水をかぶっても,そのエネルギーは病人に
は届かないだろう).勝利を祈念してTVを見ない行動を水垢離錯誤と命
名したい.

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「プレジデント」誌で連載してます
 http://www.president.co.jp/list/author/9e8851f654749e2c4ec3ab4b88489dd7.html
 TOYODA Hideki Ph.D.,  Professor,                    Department of Psychology
 TEL +81-3-5286-3567  School of Letters, Arts and Sciences, Waseda University
 toyoda (at) waseda.jp            1-24-1 Toyama Shinjyuku-ku, Tokyo 162-8644 Japan
 http://www.littera.waseda.ac.jp/faculty/tyosem/index.html
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