堀@香川大学経済学部です。 動機論の本が北大路書房から出るようですが期待しています. 最近,この方面で面白い論文がでてきているようです. 見つけたきっかけは,Robbins et al.(2004).大学の成績や退学を予測す るのに,従来の高校の成績やSATに加えて他の動機論的要因などを加えた 場合にどうなるかをメタ分析している.動機論的要因も有効であること を示している.人間を考えるとき動機論的枠組みも必要なんだ.次の表 が大枠です. ━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━ Salient Psychosocial Constructs From Educational Persistence Model and Motivational Theory Perspectivesのうち動機理論のほうだ けを挙げると ━━━━━━━━━━━━━━━━ Motivational theories ━━━━━━━━━━━━━━━ Motives as drives Achievement motivation Need to belong Motives as goals Academic goals Performance and mastery goals Motives as expectancies Self-efficacy and outcome expectations Self-worth Self-concept ━━━━━━━━━━━━━━━━━ self-worth は自尊心などが入ってくる. Convigton(2000)によると失敗定位型(失敗を避けようとする)=成績目 標型と,学習目標型がある.学習目標型は内発的動機づけによるものであ る.で,学習目標型は深くきちんと勉強するが,失敗定位型は表面的な 勉強をする.特に暗記学習をする. で,日本人は暗記学習が多いそうです.また,アジア系はアングロサク ソンよりも失敗を恐れている.成績のいい子は暗記学習でないことが多 いのは,日本人でも米国人でもいえることだそうだ. (暗記学習も機械学習の用語として使うと結構かっこいい.事例を覚え てつかうんだ.『認知科学辞典』共立出版.通常の意味は闇雲に覚えて いくスタイルではないだろか.) Eccles & Wigfield(2002)もなかなか面白かった.バカに見えないように するために,課題をさける方略がある. この3つの論文のうちの一つに,日本人は努力に帰属することが多いと いうのがあった.日本人の「運」観が欧米と違うように,「努力」観も 違うのでは.古くは,『坂の上の雲』に指摘されている乃木将軍のよう なのを努力と思っているのでは.山本(2004)が要領よくまとめている. >ただある一方法を一方向に,極限まで繰り返し,この繰り返しのための 損害の量と,その損害を克服するため投じつづけた量と,それを投ずる ため払った犠牲の自己満足し,それで力を出しきったとして自己を正当 化しているということだけであろう. 基本的に頭を使った工夫はしないし,頭を使わない.これが日本の暗記 学習の本質であろう.また,不動産屋の電話などもこの類である.不動 産屋の電話のために日本のGDPは1%くらいは落ちているのではないか. 森さんが『書斎の窓』No.537 2004.9月号で書いている「未来」というこ とは,結局,失敗定位型でなくすことでしょう.テスト法によって失敗 定位になりやすくなるのかどうかはもう少しチェックが必要なのでは. といいながら,試験監督をしていると大学でもだんだん穴埋め式の問題 の出題が増えている.それのみの試験もある. 学生の答案を見ていると,論述式(といっても簡単なもの)の答案は3 年ぐらいになるとだいぶよくなる.4年になるとそのとき受ける学生が 劣等生が多いせいかそれよりよくない.しかし,1年生よりはましだ. もともと穴埋め式テストのための勉強法略と論述式のための勉強方略は 違う.高校までは穴埋めが多いので論述式の答え方になれていないので あろう. でも,学習するのは教科書と授業だけでいいとか問題集をやればいいと いう考え方が違ってるんじゃないでしょうか.なぜ,他の本を読まない のでしょう.どんどんいろんな本を読めばいいでしょう.勉強て,まと めることや覚え込むことだけではなく,関連づけることでしょう.その ときいろんな視点から見つめ直すことが必要でしょう.いろんな本を読 むという視点が現代の教育には欠けている.昔だったらカッパブックス とか講談社現代新書とかに中高生でもよめるいい入門書があった.別に 新書でなくてもいいんだけど,どんどん生徒に本を薦めていけばいいの に. と思ってしまいました. 自尊心のほうでも研究が結構進んでますね.Psychological Bulletin 2004, Vol. 130, No. 3,はメインの論文で2本,それぞれにコメントつ きで載せてます.Crocke & Park(2004)は自尊心の高低が問題でなく自尊 心を追求することが問題なんだといってます.その中で日本は自尊心を 追求しない文化だといってます.ほんとかな. この手の論文を読んでいると日本人もしくはアジア人は別枠扱いが目に つきます. Covington, M. V. (2000). Goal theory, motivation, and school achievement: An integrative review. Annual Review of Psychology, 51, 171-200. 1. Crocker, Jennifer; Park, Lora E. (2004). The Costly Pursuit of Self-Esteem. Psychological Bulletin. 130(3), 392-414 Eccles, J. S., & Wigfield, A. (2002). Motivational beliefs, values, and goals. Annual Review of Psychology, 53, 109-32. Robbins, Steven B.; Lauver, Kristy; Le, Huy; Davis, Daniel; Langley, Ronelle; Carlstrom, Aaron (2004).Do Psychosocial and Study Skill Factors Predict College Outcomes? A Meta-Analysis.Psychological Bulletin. Vol 130(2), 261-288. http://content.apa.org/journals/bul/130/2/261 山本七平 2004『日本はなぜ敗れるのか』角川oneテーマ21 ---- 堀 啓造(香川大学経済学部) home page http://www.ec.kagawa-u.ac.jp/~hori/
ここは心理学研究の基礎メーリングリストに投稿された過去の記事を掲載しているページです。