[fpr 2722] 統計学の利用と証明

柳井晴夫

柳井@大学入試センター、です

岡本さん、いろいろなコメントありがとうございます。

まず、最初に

xとzの相関係数=(xとyの相関係数)(zに対するyの
>> > 標準偏回帰係数)+(zに対するxの標準偏回帰係数)ーー(0)

における、「xとzの相関係数」を「xのzに対する標準回帰係数」
「xとyの相関係数」を「xのyに対する標準回帰係数」に変えさせて
いただきます。明らかに、

「xとzの相関係数」=「xのzに対する標準回帰係数」、
「xとyの相関係数」=「xのyに対する標準回帰係数」

ですが、この変更、すなわち、
「xとzの相関係数」を「xのzに対する標準回帰係数」に、
「xとyの相関係数」を「xのyに対する標準回帰係数」に
変更することの意味は重要です。


以下に、その理由を示します。

なお、上式《《0》式)の証明は 良く知られていますので、ここでは書きません。
もっと一般的証明をあたえておきます。

X,Y,Zをそれぞれ複数個の変数(ベクトルと考えてよい)を含む行列(行の
数がデータ数、列の数が変数の個数)、A,B,C,D
をそれぞれの多変量回帰モデルにおける、回帰係数行列とします。このとき、
Z=XA+YB+E1ーー(1)
Y=XC+E2ーー(2)
Z=XD+E3ーー(3)
が成立すると仮定します。
(2)を(1)に代入すると、
Z=X(A+CB)+E4
となり、 (3)より、
D=A+CBーーー(4)
となります。(これは、厳密な証明ではありませんが。厳密な証明は
ここでは省略します。)

A,B,C,Dはそれぞれ、多変量回帰モデルにおける、回帰係数行列となります。
A,B.C,Dの具体的表現はここでは触れませんが、これらのコンパクトな表
現に 
射影行列(直交射影行列または,斜交射影行列)の利用が有効です。

X,Y,Zがそれぞれ1変数の場合、《4》式は

xのzに対する標準回帰係数=(xのyに対する標準回帰係数)(zに対するyの
標準偏回帰係数)+(zに対するxの標準偏回帰係数)(5)
の証明になっています。
 この式で大切なことは、xのzに対する標準回帰係数=0、のとき、yの挿入
により
 間接効果=−直接効果、なる点です。 


上記の結果は変数群が、 X1,X2,−−−,XP
とp個ある場合にも拡張可能です。

証明を授業で行うか、無視するかは、ケイス by ケイス で異なり
どちらがよいか一概にいえません。

また、共分散構造分析も含め、図的表現は有効ですが
その背後にある、数理の概略を理解してもらうことは大切なことです。

射影行列に関心のある方は、自書で恐縮ですが、

柳井晴夫・竹内啓(1983)射影行列・一般逆行列・特異値分解、 東大出版会

をご覧いただければ、幸甚です。











Yasuharu Okamoto wrote:

>
>  岡本@日本女子大学心理学科です。
>
>  柳井さん[fpr 2719]のご意見
>
> >・・・大学院の授業では
> >上記の式の意味(できれば、証明も)を教えて欲しいものです。
>
> ちょっと気になります。「証明も」とある部分です。
>
>  証明にはいくつかの役割が区別できます。
>
>  1つは、数学的事実を確定するためのものです。新事実(数学上の
> 新しい定理など)は証明によってその真であることが示されますので、
> このタイプの証明は必須のものです。
>  しかし、すでに真であることが確定している事実に対する証明は
> 学習者における学習上の役割あるいは教育上の効果からそのことを
> 行う意味を考えることになります。数学的な力、新しい事実を
> 証明する力を養わせるということもありますが、これは主に
> 数学者を目指す学生に対して考えられることです。普通の心理学の
> 院生の場合は、数学的事実に対する理解を深めるのが目的となります。
> もちろん、証明に興味をもつということもあります。授業で学生が
> 興味を示したときは、それに応じて適宜適当な証明を紹介する
> ことがあります。実数を数え上げることができないこと、あるいは
> 2の平方根が無理数であることなどの証明は、退屈しかけた学生を
> 目覚めさせるのに大いに効果があります。
>  数学的事実の理解を深めるための証明は、注意が必要です。
> だらだらした証明は、かえって数学的事実の理解の妨げになる
> おそれもあります。数学的事実の理解が目的ならば、その数学的事実を
> 証明なしで直接説明してもよいわけです。eが無理数であること、
> あるいはeというそのような数が存在することの証明を知らなくても、
> 正規分布を用いた検定を何不自由なく行うことができます。
>  データ分析に限っていえば、普通の院生にとっては、数学的証明に
> こだわるというのではなく、具体的なデータ分析例が示されると
> その手法の有用性と使用上の注意が納得しやすいと思います。 
>
>
>  柳井さんの
>
> > xとzの相関係数=(xとyの相関係数)(zに対するyの
> >> > 標準偏回帰係数)+(zに対するxの標準偏回帰係数)
> >
> >
> >上の式に含まれています。大学院の授業では
> >上記の式の意味(できれば、証明も)を教えて欲しいものです。
>
> の場合、どのような証明でしょうか。
>  標準偏回帰係数は相関係数で与えられます(南風原、第8章)から、
> 力づくで証明することができます(それほどの腕力ではありませんが)。
> しかし、これで上記の式の理解が深まることに役立つとは思えません。
> 「数学って、数学オタクの腕力の世界だ」と変な誤解を招きかねません。
>  他方、回帰モデルの組み合わせで係数を比較すると簡単に上式の
> 内容がわかりますが、これは構造方程式モデルによる理解と本質的に
> 同じです(豊田、第3章;Bollen, Chap. 3)。
> 柳井さんは、射影子による説明図をシンポジュウムで示されていましたが、
> これは数学的証明に興味のある人には面白くても、変数間の因果関係などに
> 興味があるときにはパス図による説明の方が優れています。
>  また、射影子を図示した説明は、説明であって証明ではありません。
> 幾何学的関係の図示は3次元までが限界で、それ以上の次元での関係は
> 3次元からの類推となり、証明は数式のみで行われることになります
> (3次元以下における証明は図によるものでOKというわけでは
> ありませんが)。柳井さんの射影子による図を数式できちんと証明しよう
> とすると、上で述べたパス図を構造方程式で表したものを組み合わせた証明と
> 同じになります。
>
>  むやみに統計の証明に拘ることは有害ではと危惧いたしております。
>
> 引用文献
> 1.南風原朝和 心理統計学の基礎 2002 有斐閣アルマ
> 2.豊田秀樹 共分散構造分析[入門偏](第5刷)2002、朝倉書店
> 3.Bollen, K. A. Structural equations with latent variables,
> 1989, John Wiley & Sons.
>
> 日本女子大学心理学科
> 岡本安晴
>
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