[fpr 2732] SPSS共分散分析にある多重比較・等分散性の検定

岡本安晴


 岡本@日女大です。

 後藤さんの御感想[fpr 2731]、少し整理して考えた方がよいように
思います。 

>・・・行動や志向、症状の度合いなど
>、主観が入るものを測る尺度を用いる社会科学系の研究で
>は、薬品や材料などを扱うような学問よりもとくにそれほ
>ど厳密ではないという感じなのですかね。エンジニアの方
>に「soft science」といわれる所以なのかな、と思いまし
>た。

 「あいまい」とか「厳密」とかいうことは、研究対象に関する
ことと研究方法に関することを区別した方がよいと思います。
「主観が入るものを測る尺度を用いる社会科学系の研究では、
薬品や材料などを扱うような学問よりも」というときは、研究対象に
関する「あいまいさ」ですが、この場合の「あいまい」という
評価がネガティブなものであれば注意が必要です。「あいまい」という
ことであれば、量子力学では確率を用いて現象が記述されていますが、
現象が確率的に記述されるということは、その現象が「あいまい」で
あるということです。しかし、「あいまい」な現象を数学的に扱うために
確率を用いるわけです。精密さを求めればいくらでも厳密な値が得られる
という考え方は古い考え方で、21世紀の科学は確率的(統計的)に
考えなければならないという説明もあります(Saltburg, 2001, preface)。
社会科学系の現象は「あいまいさ」が明らかですので、統計的モデルを
設定して分析を行うのが自然であり、そのとき現象の「あいまいさ」を
数学的に扱うことが可能になります。

 後藤さんのメール[fpr 2729]、多重比較と分散分析の関係を
問題とするものですが、多重比較は実験単位の第1種の過誤の
確率を調節していて、第2種の過誤の確率のバランスの方は
不明です。また、多重比較も分散分析も標準的には帰無仮説を
棄却するかどうかの決定です。Neyman自身は仮説検定という
方法をあまり用いなかったと説明されています。

  In his later papers, Neyman seldom made use of hypothesis
test directly.  His statistical approaches usually involved
deriving probability distributions from theoretical principles
and then estimating the parameters from the data.
(Salsburg, 2001, p. 115より)

 統計的モデルを設定してそのパラメタ値を求めるという立場ですと
多重比較あるいは分散分析に共通の線形モデルのパラメタの推定を
行う、制約条件の検定/モデルの適合度検定などにより最適なモデルの
パラメタ値を求めるということになります。

引用文献
Salsburg, 2001, The Lady Tasting Tea: How Statistics Revolutionized
              in the Twentieth Century.  

日本女子大学心理学科
岡本安晴




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